桜が引っ越してしまう前日、二人でタイムカプセルを埋めた。
 二十歳になったら一緒に掘り起こそうと言って、それぞれ封筒に手紙を入れて、それを更に一つの缶に入れて、いつも遊んでいた山に埋めた。これがあれば、離れ離れになっても、必ずまた一緒に会える。指切りをした。
 颯介:そんな大切なの、よく忘れてたね。
 ふー:忘れてたっていうか……あまりに昔のことだったから。
 呆れる颯介のメッセージに返事をする。ただ思い出してしまえば、確信が持てる。タイムカプセルを掘り起こせば、桜は向こうにいける。
 颯介:場所は覚えてるの。
 ふー:よく遊んでた、一番高い木の下。まあ、行けばわかると思う。
 颯介:仕方ないなあ。フミは頼りないから、行ってあげるよ。
 正直、文也も颯介が来てくれた方がありがたい。話し相手としてだけではなく、先日のムギの一件のように、彼は頼りがいがある。それが年上の薫子と付き合える要因の一つかとも思う。
 二日後、再び文也は颯介と待ち合わせた。以前と同じように九時の電車に乗り、杉ヶ裏に向かう。
「当時の一番高い木だろ。今も一番高いとは限らないよね」
「そうなんだよなあ」
「何の木だったか覚えてる?」
 颯介の質問に文也は答えられなかったが、桜は「イチョウの木だよ」と返事をした。
 saku:秋になったらイチョウの黄色い葉っぱを拾って遊んだの、覚えてる。
「そういえば、そんな気がするな」
 saku:もうちょっとしっかりしてよ。
「フミは、いつになっても桜ちゃんに勝てないな」
 乗り換えのバスを待ちながら、颯介が笑った。