寝不足の頭で、七月七日、文也は一人で御浜高校に登校する。病院に泊っている律子からは、不安定な状態が続いていると連絡があった。まるで悪夢の中を歩いているようだが、自分にできることはこれだけだと、文也はいつもの席につく。
 緊張状態が続いているせいか、三時間目の国語の時間、瞼が下りてきた。それに抗う気力もなく、うとうとしてしまう。
 これは、幻聴だな。文也は冷静に思った。

 ふー、起きなよ。不真面目だなあ。

 呆れる彼女の聞き慣れた声。桜のせいだよ、なんて頭の中で返事をする。
 呼ばれていることに気がつき、文也ははっと顔を上げた。
「月城、ちょっと」
 国語の教師がこっちを向いて呼んでいる。クラスの全員の視線が集まっている。目をやると、教室の出入り口に担任教師の姿がある。
 あのまま眠っていれば、夢の中だけでももっと話ができただろうか。文也はいつまでも、そう思う。

 七月七日。天方桜は息を引き取った。