それから一週間が経ったが、文也の想像通り、自分たちの言動に大きな変化はなかった。放課後に見舞いに行き、他愛のない話をする。その中で文也はいつも通りに好きだ好きだと言ったし、桜もはいはいとそれを受け流した。ただそこから、付き合って欲しいという言葉は抜けた。その変化は二人の中で非常に大きなものだった。
「いろんな人に言われて大変だったんだから」
休憩所で桜は言う。
「他の部屋の患者さんや看護師さんとかも。お医者さんにまで言われたよ。よかったねー桜ちゃんって」
「桜は有名人だな」
「ふーのせいだよ。私は静かに真面目に生きたいの」
そうはいえど本心から嫌がってはいないのか、桜も可笑しそうに笑っている。その笑顔を見て、今日も見舞いに来て良かったと、文也は心の底から思う。
桜の病態は落ち着いて、外泊を許されるようになった。彼女は出来る事なら少しの間だけでも家で過ごしたいと望み、母親も看病のために休みを取った。
それならデートをしてみたらと言ったのは、颯介だった。
「もちろん、桜ちゃんの負担にならなければだけど。もし出来るなら、どこか遊びに行ってみたらどうかな」
電話の向こうで、颯介は彼なりに二人のことを考えていた。せっかく付き合い始めたというのに、健康なカップルらしいことがなにも出来ない二人を不憫に思っているようだ。
「もしフミが不安なら、僕らもついて行くよ」僕らというのは、颯介と薫子のカップルのことだ。
「それってデートっていうのか」
「ダブルデートっていうだろ。間違いじゃない。薫子さんには予定聞いてみないといけないけど、桜ちゃんに会いたいって言ってたし、ある程度は都合付けてくれると思う」
彼の提案に、文也も賛成した。問題は桜本人だが、予想通りに彼女も乗り気の姿勢を見せた。
「なにそれ、すっごく行きたい!」
颯介たちが遊びに行くのについて行かないかと尋ねると、桜は目を輝かせた。
「でも、颯介くんたちはいいの」
「そーすけの方から誘ってくれたんだ。だから遠慮しなくていいって」
「そうなんだ。じゃあ、ダブルデートだね」
デートといえば、桜は気を張って無理にでも来ようとするかもしれない。そんなことを颯介と相談して、敢えてデートという単語を使わなかったのだが、彼女は自ら口にした。
「ずっと病院の中だったからなあ。今から楽しみになってきた」
ベッドの上で、桜はまるで子どものような無邪気な笑顔を見せている。それはもう抱きしめたいぐらいに文也にとっては可愛らしいのだが、心配が顔をのぞかせる。
「楽しみなのはいいんだけど、桜は本当に大丈夫なのか」
「大丈夫大丈夫! 体調がいいから外泊できるんだよ。私ももうずっと病気なんだもん。ヤバかったらわかるよ」
桜は珍しく、文也よりもはしゃいでいる。
「一応、先生にも許可貰っとけよ」
「わかってるってば」
予定だけでこんなに喜んでくれるとは。つられて浮かれそうになりながら、文也は颯介に感謝した。
「いろんな人に言われて大変だったんだから」
休憩所で桜は言う。
「他の部屋の患者さんや看護師さんとかも。お医者さんにまで言われたよ。よかったねー桜ちゃんって」
「桜は有名人だな」
「ふーのせいだよ。私は静かに真面目に生きたいの」
そうはいえど本心から嫌がってはいないのか、桜も可笑しそうに笑っている。その笑顔を見て、今日も見舞いに来て良かったと、文也は心の底から思う。
桜の病態は落ち着いて、外泊を許されるようになった。彼女は出来る事なら少しの間だけでも家で過ごしたいと望み、母親も看病のために休みを取った。
それならデートをしてみたらと言ったのは、颯介だった。
「もちろん、桜ちゃんの負担にならなければだけど。もし出来るなら、どこか遊びに行ってみたらどうかな」
電話の向こうで、颯介は彼なりに二人のことを考えていた。せっかく付き合い始めたというのに、健康なカップルらしいことがなにも出来ない二人を不憫に思っているようだ。
「もしフミが不安なら、僕らもついて行くよ」僕らというのは、颯介と薫子のカップルのことだ。
「それってデートっていうのか」
「ダブルデートっていうだろ。間違いじゃない。薫子さんには予定聞いてみないといけないけど、桜ちゃんに会いたいって言ってたし、ある程度は都合付けてくれると思う」
彼の提案に、文也も賛成した。問題は桜本人だが、予想通りに彼女も乗り気の姿勢を見せた。
「なにそれ、すっごく行きたい!」
颯介たちが遊びに行くのについて行かないかと尋ねると、桜は目を輝かせた。
「でも、颯介くんたちはいいの」
「そーすけの方から誘ってくれたんだ。だから遠慮しなくていいって」
「そうなんだ。じゃあ、ダブルデートだね」
デートといえば、桜は気を張って無理にでも来ようとするかもしれない。そんなことを颯介と相談して、敢えてデートという単語を使わなかったのだが、彼女は自ら口にした。
「ずっと病院の中だったからなあ。今から楽しみになってきた」
ベッドの上で、桜はまるで子どものような無邪気な笑顔を見せている。それはもう抱きしめたいぐらいに文也にとっては可愛らしいのだが、心配が顔をのぞかせる。
「楽しみなのはいいんだけど、桜は本当に大丈夫なのか」
「大丈夫大丈夫! 体調がいいから外泊できるんだよ。私ももうずっと病気なんだもん。ヤバかったらわかるよ」
桜は珍しく、文也よりもはしゃいでいる。
「一応、先生にも許可貰っとけよ」
「わかってるってば」
予定だけでこんなに喜んでくれるとは。つられて浮かれそうになりながら、文也は颯介に感謝した。