【七月の報告】
 時折、ディープブルーの存在を忘れそうになります。
 もし今ポケットの中にある薬が、古閑さんのものではなくて、僕自身のものだったとしたら。
僕はそのうち、ポケットティッシュでもツッコむみたいにぞんざいに扱って、僕の中で存在が希釈されて、薄まっていって、やがて忘れ去っていたんじゃないかって思います。それくらい、僕の日常の中に溶け込んでいるんです。
 時々、考えるんです。
 僕はあなたに無理を言って、こうしてルールを破ってまでディープブルーを手に入れました。
 そこに、意味はあったんでしょうか?
 今回は本当に偶然、僕と古閑さんをつなぐ、そのきっかけになったわけですけど。
 もし、彼女と出会っていなければ。
 彼女との一件がなければ。
 僕の中でこの薬は、どういう存在になっていたんでしょうか。
 八月になり、誕生日が近づいています。
 あなたと約束した期限も、もうすぐ果たされます。
 その時僕は、自分の薬とどう向き合うのか。
 まだ結論が出ていません。
 あやふやな文章ですみません。だけど、これが僕の本心です。
 ひとまず、お礼を言わせてください。
 今までありがとうございました。

【須々木香織からの返信】 
 ははっ! 随分と殊勝な文章を書くようになったじゃないか。
 君はあやふやな文章と言っていたけれど、だけど私は、今まで君が寄こしてきた連絡の中で、これが一番好きだな。
 さて、なんだったか。
 そうだ、ディープブルーを手にした意味、だったな。
 一つ大事なことを教えてあげよう。
 何かの行為に意味があったかどうか、なんて、つまらないことを考えるのはやめなさい。
 それは損得勘定だけで世間を歩き回る、薄汚い大人の考えることだ。君のような、若く、柔軟で、美しい青色の少年が考えるようなことではないよ。
 いいかい、春海君。もっと素直になりなさい。
 ディープブルーは、君と古閑さんをつなぐきっかけになった。
 それでいいじゃないか。
 偶然とか必然とか、そんなことをうじうじと考えなくていい。
 ありのままを受け止めて、その後で行動しなさい。
 後手後手に回ったっていい。泥臭くたって構わない。
 そうやって人は、少しずつ経験を積んで、大人になっていくのさ。
 おっと、少々説教臭くなってしまったね。
 君の素晴らしい文面にあてられて、つい私も筆に力が入ってしまったよ。
 さて、これで君たちの誕生日までにもらえる報告は最後になるわけだが……。
 これ以後も、何かあればいつでも連絡してくれたまえ。
 なに、遠慮することはない。困ったことがあった時、助けて欲しい時、いつでもいい。
どこにいようが何をしていようが、私は必ず君たちの力になると約束するよ。
 なんたって私は、空気の読める女だからね。