「上がって、今誰もいないから」
「うん。……お邪魔します……」
「部屋、全然片付けてないから恥ずかしいくらいに汚いんだけど……」
そう言って案内された直哉の部屋は、確かに物が散らばっている印象は受けるものの、汚いとは思わなかった。
「お茶持ってくるから適当に座って待ってて」
そう言われ、ベッドと簡易テーブルの間のスペースに正座をする。
グラスを二つ持って戻ってきた直哉は、そんな優恵の姿を見て少し笑った。
「そんな固くならなくていいよ。足崩して」
「……なんか、緊張しちゃって……」
「ははっ、俺も優恵の部屋に入った時緊張したから一緒だな」
「うん……」
高校生の男の子の部屋になんて入ったことがないんだから仕方ない。
優恵が恐る恐るベッドを背もたれにするように足を崩したのを見て、直哉も隣に座る。
ピタッと肩が触れ合う距離に、お互いほんのりと赤面させてお茶を一口。
仕切り直すように
「それで、話って?」
と直哉が口を開き、それに優恵は頷いた。
「……私、あれからずっと考えてたの。私はどうしたらいいんだろうって」
「うん」
「誰かを好きになるとか、誰かと付き合う未来とか、考えたこともなかった。直哉くんには言ってなかったんだけど……私ね、ずっと死にたいって思ってた」
「え?」
「あの事故の後、オミを死なせた私がなんで生きてるんだろうって思って、何度も自殺未遂したの。マンションから飛び降りようとしたり、手首を切ろうとしたり。加湿器のコンセントを首に巻こうと思ったこともある」
「優恵……」
「だけどその度に、怖くてできなかった」
ぎゅっと両手を握って震える優恵に、直哉は支えるように肩を自分の方に引き寄せる。
触れた肩が、温かくて泣きそうになった。
「中学も、ずっと不登校だった。オミを殺したのはお前だって、龍臣はお前を恨んでるって同級生に何度も言われて。苦しくて、逃げ出した。テスト期間だけ保健室登校してたんだけど、わざわざ私を見に来て"まだ生きてたの?"って嫌味言われることもあった。オミはね、友達がすごく多くて、みんなから愛されてたから」
「そんな……」
「あの事故の後、友達もみんな離れて行った。だから、私はいつも一人で。オミに救ってもらったのに、こんなことなら私が死んだ方がマシだったって何度も思った。それが、オミにすごく失礼なことだってわかってても、止められなかった」
生きていることがつらかった。
助けてもらったのに、死にたいと思った。
それなのに、死にきれない自分が大嫌いだった。
「そんな時に、直哉くんが私を見つけてくれた。直哉くんに出会ってから、私の人生は変わったの。友達ができた。友達ができたら、学校が楽しいと思えるようになった。ただこなすだけだった勉強も、友達に教えるんだって思ったらもっとやろうって思えた」
「……」
「直哉くんとも友達になって、クレープを食べて。久しぶりに笑った。スイーツバイキングなんて行ったこともなくて、実はそわそわしてた。動物園も花火大会も久しぶりで、誘ってもらえたのが本当に嬉しかった」
次第に涙をこぼす優恵に、直哉はその肩をさする。