「……え、優恵……?」

「あ、直哉くん」

「どうした? こんなところで……いや、というか、なんで俺が学校にいるって知って……?」


 夏休みも半分が過ぎたころ、優恵は栞と一緒に南高の門の前で直哉を待っていた。

 今日は南高の夏期講習の最終日だったらしく、栞が彼氏を迎えにいくと言っており、優恵もそれに同行させてもらうことにしたのだ。

 連絡もしていなかったため、当然直哉は優恵を見つけて驚いて颯に断りを入れてから駆け寄ってきた。


「急に来てごめんね。友達に聞いたんだ。今日が最終日だって」


 直哉は優恵の隣にいる栞に気が付いたようで、そっと会釈をする。


「じゃあゆえち、私も彼氏きたし、行くね!」

「あ、うん。ありがとう栞ちゃん。またね」

「うん、バイバーイ」


 直哉ばかりに気を取られていて、栞の彼氏が来ていたことに全く気付いていなかった。
彼氏と仲睦まじく手を繋いで帰る栞を見送ると、優恵は直哉に向き直る。


「ごめんね、迷惑なのはわかってたんだけど……」


 散々門の前で待っていた直哉に迷惑だからやめてくれと言っていたのに、まさか自分が同じことをするとは思っていなかった優恵。
しかし、


「全然。迷惑じゃないよ」


 直哉はそんなことはどうでもいいとばかりに優恵の手を取り学校から離れる。


「でも俺に用があるなら連絡してくれれば良かったのに。急にいるからびびった」

「うん。なんか、なんて連絡したらいいか悩んでるうちに時間ばっかり経ってて……」

「……それは、俺のせいだよね。俺が困らせて悩ませてんだよな。本当ごめん」

「違っ、違うよ。私が何も答えを出せないのがいけないんだよ……」


 お互いにごめんと謝り続けているうちに、


「俺ら、謝りすぎじゃない……?」


 と直哉が言ったことで面白くなってしまい、同じタイミングで吹き出すように笑う。


「うん、確かに謝りすぎだったかも」

「もうやめよ、今日はもうごめんは禁止」 

「うん」


 一頻り笑うと、今度は静寂が訪れてどちらからともなく顔を見合わせる。


「……せっかくここまで来てくれたし、俺ん家寄ってく?」

「……え?」

「いや、このまま帰したくないな……と、思いまして……」


 そんなストレートな言葉に、一瞬で顔を真っ赤に染めた優恵。

 初めて会った時とは比べ物にならないほどに優恵の表情が豊かになったことに嬉しさを隠しきれない。

 思わず頬が緩んでしまう直哉にじとりとした視線を送りつつ。


「……迷惑じゃないなら、ちょっとお邪魔してもいいかな。話したいことがあるの」


 そう、頷いた。