「優恵ちゃん!」

「ゆえちー!」

「愛子ちゃん、栞ちゃん、おまたせしました」

「ううん。急に誘ってごめんね? きてくれて嬉しい」

「愛子の家、めちゃくちゃ豪邸だからきっとゆえちびっくりするよ」

「え、そうなの?」

「やめてよー。優恵ちゃん、普通の家だから!」


 そんな会話をしながら歩くこと五分ほど。
見えてきたのは確かに栞の言う通り、かなり大きな一軒家だった。


「すごい、大きい」

「でしょー?」

「そんなことないよ、普通の家だよ。ほら、上がって?」

「お邪魔します……」

「お邪魔しまーす!」


 ブラウンの可愛らしい扉をくぐると、中も白を基調とした明るいお家が広がっていた。
愛子に手土産のお菓子を渡し、部屋に通される。

 ピンクと白がメインの落ち着いたお部屋は、キラキラとしていてとても可愛らしい。

 そこでお茶とお菓子をもらいながら、夏休みの宿題を始めた。


「ゆえち〜、ごめんここ教えて〜」

「ん? どこ?」

「この問題全然わかんないー……」

「あぁ、これはこの公式を使うといいよ。ここに代入して……」


 栞は数学が苦手なよう。
だけど、優恵が教えるとすぐに


「そっか! なるほど!」


 とパッと笑顔になってどんどん解いていく。


「優恵ちゃんもうそんなに進んでるの? 早い!」

「家にいてもあんまりやることなくて……」

「私なんてすぐ漫画読んじゃうから全く進まないよー」

「ははっ、私も。部屋でやるとすぐ漫画読んじゃうからリビングでやろうと思うと今度はテレビに気とられる」

「わかるー!」


 そんな会話をしながら黙々とテキストに向き合うこと一時間と少し。


「終わったー……!」

「って言ってもまだ数学が終わっただけだよ栞」

「いや、でも数学さえ終わっちゃえばあとはどうにかなると思うから」


 栞がテーブルに突っ伏したのを合図に、勉強会は終了。
そこからは休憩という名の女子会がスタートし、勉強の話から学校の話、そしてよくある恋バナにうつる。


「実は、ほうこくがあるんだけど……」

「なになに?」

「実は私! 彼氏ができましたあー!」

「えぇ!?」

「すごい……! おめでとう!」

「へへ、ありがとう」


 栞のそんなサプライズ報告から始まった恋バナ。

 栞の彼氏はどうやら南高に通う同い年の男の子らしく、夏休みに入ってから始めたバイトで知り合ったらしい。


「そこで一目惚れしちゃって。それで、私から告ったの!」

「えぇ! 栞、積極的!」

「相手はなんて?」

「実は向こうも気になってたって言ってくれて、それで付き合うことになったんだあ!」


 栞は幸せが爆発しているようにとろけた表情をしていて、見ている方まで幸せになれそう。


「私、結構好きになったらすぐ言っちゃうタイプだから引かれちゃうこともあるんだけど、今回はうまくいってよかったと思って!」

「すごいなあ、私は自分からとか言えないなあ」

「私も最初はそう思ってたんだけどね。小学生の時からずっと好きだった初恋の人が、中学入ったらすぐに告白してきた女の子と付き合うようになっちゃって。それ見て悔しくてさ。玉砕覚悟でも言っちゃった方がすっきりするし後悔しないって気が付いたんだよね」


 栞の言葉が、胸にささる。


(言わないまま後悔なんてしたくなかった。直哉くんもそう言ってた)


 栞は、長年の想いを伝えることなく失恋してしまったから。
直哉は、明日が皆に平等にやってくるわけじゃないと、知っているから。

 自分の気持ちは言葉にしないと伝わらないし、それが一生の後悔につながるかもしれないことを、二人とも知っているからだ。


(……それは、私も知っている。私も、同じだ)


 そして優恵もまた、痛いほど知っている。


「それでね! 明日デートなんだ! どんな服着ていけばいいか一緒に考えてくれない?」


 栞の声に優恵は正気に戻り、愛子と一緒に頷く。
と言ってもここは栞の家ではないため、栞のスマホに入っている過去の写真を見てああでもないこうでもないと、三人で服装を話し合った。