「……直哉、くん」

「初めて出会った時から、いや、もしかしたら会う前から。ずっと気になってた。龍臣が命をかけてまで助けたかった子って、どんな子なんだろうって。ずっと気になってた」


 声と会話の記憶だけでも、二人が仲が良かったのは明白。
だからこそ、二人の間に目に見えない絆があったこともよくわかっていた。


「いざ会ってみて、話してみて。最初は本当に龍臣のためだけだった。龍臣の気持ちを伝えたい。本当にそれだけだったんだ。だから、龍臣のことを伝え終わったらもう会わないほうがいいと思ってたし、会うつもりもなかった」

「直哉くん……」

「だけど、それは嫌だと思った。このまま優恵ともう会わないなんて、嫌だと思った。それどころか、優恵が笑ったところをもっと見たい。もっといろんな表情を見たい。もっと仲良くなりたい。そう、思っちゃったんだ」


 初めて聞く直哉の想いに、優恵は驚きを隠せない。


「龍臣は優恵のことが好きで、優恵も龍臣のことが好きだった。そう聞いた時に、やっぱりなって思った。同時に、悔しかった」

「……」

「俺はいくら頑張っても龍臣の代わりにはなれなくて、俺がいくら龍臣の心臓を持ってて、龍臣の記憶を持ってても、俺は俺であって、龍臣じゃない」

「……うん」

「だから、もうどこにもいない龍臣を一途に想って苦しんでる優恵を見たら、悔しくてたまらなかった」

「そんな……」

「初めて思った。俺が龍臣だったらどれだけよかったかって。中途半端に記憶を持ってるんじゃなくて、俺自身が龍臣になれたらどれだけよかったかって。でも、俺はそうじゃない」

「……」

「だから、俺は俺のやり方で後悔しない選択をすることにした」


 直哉にとっての後悔しない選択。それは、優恵を諦めないこと。
ずっと、生きる意味を見出せなかった。生きる希望を見失っていた。
そんな直哉が見つけた、第二の人生の目標。


「俺は龍臣じゃない。だけど、優恵を守ることはできると思う。いや、そう思いたい。俺自身が、優恵を守りたいんだ」


 龍臣の代わりになるわけじゃなく、直哉自身が優恵を守り、共に生きていきたい。


「優恵にとって、俺は所詮龍臣の代わりかもしれない。だけど、俺は龍臣の代わりになるつもりなんてない。俺は俺として、優恵と一緒にいたい」


 それは、四年前の直哉からは考えられないくらい生きることに前向きになっている証拠だった。


「……優恵が迷惑じゃなかったら。……俺と、付き合ってほしい」


 直哉の目にはその想いが全て詰まっていて、優恵は視線を捉えられて逸らすことができない。

 口をうっすらと開いて、そして閉じて。

 何を言えばいいのか、どうすれば良いのかをひたすら考えているように見えた。

 戸惑いと、嬉しさと、恥ずかしさと。
優恵は心の奥底から込み上げてくる様々な感情に支配され、うまく言葉が出てこない。

 それどころか、言葉にできなかった感情がなぜか涙となって、一筋目から頬を伝っていく。

 今度は直哉が優恵の頬に指を這わせ、その涙を掬い取った。


「……突然困らせてごめん。だけど、優恵が好きすぎて、もう黙ってなんていられなかった。言わないまま後悔なんてしたくなかったから」


 そう笑って、優恵の頬を撫でる。


「絶対、優恵を振り向かせてみせるから。龍臣の分まで、俺が幸せにするって誓う。だから、覚悟しといて」


 夜空に咲く花火の灯りで照らされた直哉の笑顔。
それは、儚くも美しく、まるで一枚の絵画のようだった。