「すごい……こんな近くで見たの、初めてだ……」
入院中はもちろん、退院してからも見に行くことはなかった。
颯に誘われたこともあったけれど、颯以外の人もいると聞いてなんとなく怖くなって断ったからだ。
「綺麗だよね。私、花火って大好き。久しぶりに見たら、やっぱり綺麗」
優恵も、久しぶりに見た花火に心が躍る。
本当は、ずっと誰かと見に行きたかったのかもしれない。
だけど、楽しむことすら許されないと思って自分を責めていたため、そんなことを考えている余裕すらなかった。
お互い思い入れが強い分、今日の花火は特別綺麗に見えた。
「……俺、今まで花火なんてわざわざ見に行って何が面白いんだって思ってた。だけど……なんか、わかった気がする」
「え?」
「……大切な人と見るって、すごい楽しいし特別に感じる」
「……直哉くん……」
「俺、今日優恵と一緒に来れて良かった。優恵を誘って良かった」
その声に隣を見ると、直哉は静かに涙を流していた。
優恵はそれに驚くこともせず、指でその涙をさっと拭う。
「……ゆ、え……?」
「私も、今日直哉くんと一緒に来れてよかった。……私、直哉くんと一緒にいると気持ちが楽になるみたい」
瞬きで涙の膜が消えた時、直哉の目に映ったのは今まで見たことないほどに綺麗に微笑む優恵の姿。
それは、まるで優しく世界を照らす月のように。
温かくて、優しくて、胸がぶわりと高揚するような微笑みだった。
その瞬間、直哉は頬に添えられている手に自分の手を重ねる。
自分の涙を拭いてくれたからか、その指先はうっすらと濡れているようだ。
それすらも愛おしくなって、何度も手の甲に擦り寄りながら撫でた。
「ふふ、猫みたい」
「心外な」
「だって可愛いから」
「可愛いよりかっこいいがいい」
「……かっこいいよ」
自分でねだっておいて、いざ照れながらかっこいいなんて言われてしまったら、その破壊力に直哉はやられる。
そのまま頬にある手を自分のそれで絡め取り、下に持ってきて繋いだ。
「……直哉くん?」
不思議そうな表情の優恵と見つめ合い、直哉は一つ深く息を吐いた。
「……優恵」
「うん」
「……俺、優恵のことが好き。大好き」
頭上では、うっとりするほどに綺麗な花火があがっている。
それなのに、もう二人はお互いの顔しか見ていない。
打ち上がるたびに歓声があがり、人々はもっと近くで見ようとどんどん前に進んでいく。
気が付けば二人でぽつんと端の方に取り残されており、お互いの声だけが聞こえていた。