橋に向かう前に、まずコンビニで飲み物やつまめる食べ物を調達。
その足で近くでやっている出店にも向かい、たこやきとお好み焼きも買った。

 橋の上に向かうと、まだ打ち上げまでは時間もあるのに結構な混み具合。


「直哉くん、大丈夫?」


 何度かそう確認するけれど、


「うん。大丈夫。ありがとう」


 直哉は人混みなんて気にならないほど嬉しいのか笑顔で答えた。
橋の上からならどこからでも見えるため、端の方に位置どりをしてそこで待つことにした。


「ん!このたこ焼きおいしい」

「うん、ほんとだ。外サックサク。うんまっ」

「このソースがおいしい」

「な、甘くていくらでも食えそう」


 優恵も直哉も元々そんなに食べる方ではないけれど、この環境がそうさせているのか二人で一緒に食べているからか、いつもより食欲が旺盛だ。

 優恵もおいしそうに頬張っていて、口元についたソースにも気付かずにもう一つたこ焼きを食べる。


「優恵、ついてる」


 直哉は当たり前のようにその口元に指を這わせ、優恵が固まっているのをいいことにスッと取って自分の口に運んだ。


(なっ……今、何したのっ)


 突然のことに驚いて固まる優恵と、


「ん、とれた」


 と嬉しそうにふわりと笑う直哉。
その様子は側から見れば恋人同士そのもので、甘い空気が漂っているようだった。



「……人増えてきたね」

「あぁ。やっぱり混むんだな」

「うん。平気?」

「優恵がいるから大丈夫」

「もう、私がいても人混み苦手なのは変わらないでしょ」

「まぁそうなんだけどさ。なんか、優恵が隣にいてくれると人混みなんてどうでも良くなる」

「そうなの?」

「うん」


 好きな人が、自分のために浴衣を着ておしゃれしてきてくれたのだ。

 それが嬉しすぎて、可愛すぎて。
他の人のことなんてどうでもいいし、人混みなんて気にならない。

 むしろ、優恵に悪いムシがつかないかの方が心配で心配で。
それくらい、直哉はもう優恵しか目に入っていないのだ。


(強いて言うなら優恵が可愛すぎて誰にも見せたくない。でも一緒に花火は見たい。……複雑な心境だな。とにかく優恵が可愛すぎる)


 直哉は、繋いだ手をもう一度握り直す。


「ん? どうかした?」

「ううん。もうすぐ始まるからそれ貸して」

「ありがとう」


 空いた容器を袋にまとめてから、近くにある臨時に設置されているゴミ袋に入れる。

 辺りもすっかり暗くなり、そろそろ開始時間になりそう。
空を見上げると雲ひとつない快晴で、綺麗に花火が見れそうで優恵は珍しくワクワクしていた。

 そして、打ち上げ開始時間。

 打ち上げ会場からは少し距離があるためアナウンスは聞こえなかったけれど、


「……あ! 始まった!」


 小さな光が空へと昇っていくところが見えて、すぐに大輪の花を咲かせたことで優恵が呟き、周りからも同時に歓声が上がった。

 どんどん打ち上がり、そして儚く散っていく打ち上げ花火。
直哉はそれを見ながら、感動で胸が震えていた。