「あ、おい。もうすぐ信号変わるぞ。その靴じゃ走れないんだからやめとけって」
「いーの。ここ一回見逃しちゃうと長いんだもん」
「そうだけど……」
案の定、渡り始めて少しすると信号は点滅する。
「ほら急げー」
「先行ってて!」
龍臣にそう言って、早歩きで横断歩道を渡っていると、あともう少しのところで信号が赤に変わる。
「やばっ」
「ほら早く!」
急かされて、走り出した時に運悪くバランスを崩してしまってそこに倒れ込んだ。
「あ、おい!」
アイスは無惨にも落ちてしまい、食べられそうにない。
それよりも、早く歩道に行かないと。
そう思って立ち上がった瞬間、脇道から猛スピードで左折してきた車がやってくる。
その車は明らかに法定速度を超えており、ブレーキを踏んでいる気配も無い。
そのまま交差点に入ってきてもスピードを緩めることなく、その車は優恵のいる横断歩道に突っ込んでくる。
優恵は避けないとと頭ではわかっているのに、突然の出来事に身体が固まってしまってうまく動かなかった。
「危ない!!」
龍臣の声に我に帰った優恵。しかしもう車はすぐそこまで来ており、急ブレーキの音とクラクションが鳴り響く。
間に合わない。そう思って目をギュッとつぶった。
――次の瞬間。
ドン、という大きな音と共に、優恵の身体は弾き飛ばされた。
しかし、思いの外痛みは少ない。
「あ、れ……」
どうしてだろう。そう思って身体を起こした瞬間、龍臣の姿が見えないことに気がついた。
「オミ……? どこ?」
辺りを見回しているうちに、通行人が集まり「救急車!」と叫んでいる場所があった。
そこには電柱があり、先ほどの車がぶつかり前の部分は大破していた。
そのすぐ近くに、見覚えのある服と身体が見える。
「お、み……?」
恐る恐る駆け寄ると、そこには頭から血を流してぐったりしている龍臣の姿があった。
「オミ……? なんで……オミ? ねぇオミ!? 返事してよ!?」
何度優恵が呼びかけても、龍臣は返事をしなかった。
救急車がやってきて、龍臣も優恵もそのまま病院に搬送された。
「私は大丈夫だから! オミ! オミのところに行かせて!」
龍臣と同じ救急車に乗ろうとして無理矢理引き剥がされてしまい、事故のショックと精神的なもので気を失ってしまった。
そして目が覚めた時、病室で龍臣の死を知らされた。
車に轢かれそうになった優恵を助けようとありったけの力で優恵を押した龍臣だったけれど、車もまた優恵を避けようとした。
結果撥ねられてしまったのは龍臣の方で、頭を強く打ってしまったことが原因での死だったと聞いた。
優恵は病室でそれを知り、優恵の目が覚めたことで安堵して"無事で良かった"と泣く両親に何も言えず。
(私の、せいで。私のせいで……オミが、死んだ……?)
その事実だけが、ずっと頭の中をぐるぐると回っていたのだった。