迎えた当日。
優恵は少し遅めのお昼を食べて、母親の手を借りて浴衣を身に纏っていた。
「優恵、できたわよ」
「あ、ありがとう……」
「でも、良かった。この浴衣、優恵が着てもらいたかったから」
「……お母さんが昔着てたんでしょ?」
「そう。可愛いでしょ」
「うん」
黒地に鮮やかな紫陽花の花。その浴衣は優恵の少しミステリアスな雰囲気にぴったりのデザインだ。
黒髪のロングヘアも緩く巻いてアップスタイルにしている。
普段の自分と違う姿にそわそわしながらも、軽くメイクもしてもらって荷物を持って家を出た。
(……直哉くん、なんて言うかな……)
歩きながら、直哉が言いそうなことを考える。
(馬子にも衣装? ……いや、直哉くんは多分そんなこと言わないな……びっくりして、でもお世辞だとしても似合ってるって言ってくれるような気がする)
直哉は優恵が傷つくようなことは言わないだろうと、優恵自身もよく知っていた。
(でもそんなの自意識過剰かな……やっぱり似合ってないとか言われちゃうのかな……)
しかし、頭では分かっていても不安になるもの。
歩くたびに周りに人が増えていき、目的の橋が近付くとすでに何人も人が見えて驚いた。
直哉とちゃんと合流できるのか不安に思いながらも、直哉に
"もうすぐ着くよ"
とメッセージを送る。
"俺も"
そう返事が来て、歩きながら辺りを見回す。
「あ、直哉くん」
直哉の方が先に着いたらしく、橋の近くでスマホを見ながら待っているのを見つけた。
直哉は優恵の声にスマホから顔を上げる。
そして優恵が視界に入ると、
「っ……!」
目を見開いてから、頬を染めた。
「おまたせ」
「いや、俺も今来たから……」
「やっぱり結構人多いけど、大丈夫そう?」
「うん。正直今それどころじゃなくなったから全然平気」
「……?」
直哉の言っている意味がわからず首を傾げる優恵に、直哉は少し呆れながらも
(そんな鈍感な優恵もらしくていい)
と自分を納得させて笑う。
「優恵」
「ん?」
「浴衣、似合ってる。すごい可愛くてびっくりした」
「あっ……」
お世辞でも良いから、どうせなら似合ってるって言ってほしい。
そんな優恵の想いは、会って早々に叶ってしまって拍子抜けした。
しかも、照れたように少し目を逸らす直哉を見れば、それかお世辞じゃないことくらいいくら鈍感な優恵でもわかる。
「あ、あり、がとう……」
語尾を小さくしながらも、お礼を告げると直哉は嬉しそうに笑って手を出す。
「……人多いから、はぐれるだろ。ほら」
いつだかと同じような言葉を良い、有無を言わさぬように優恵が手を出すのを待っている。
その表情はほんのりと赤く染まっていて、恥ずかしいのをどうにか表に出さないように必死に表情筋を殺しているよう。
それに優恵も照れ臭さを感じながらも、勇気を出してそっと手を出す。
ぎゅ、っと。痛くない程度にきつく繋がれた手は、今日も温かかった。