授業を終えると、母親からメッセージが来ていることに気がついた。
"帰りに牛乳買ってきてくれる?"
どうやら買い忘れていたらしい。
朝家を出る時に今日はシチューだと言っていた。
牛乳が無いのは死活問題だろう。
仕方ないからとため息をつき、
「颯、帰りにスーパー寄っていい?」
と聞く。
「なに、おつかい?」
「おつかい……まぁそうだな。今日シチューなのに牛乳きらしてたらしい」
「おぉ、それは一大事じゃん。急いで行こう」
行きはバラバラだが、帰りはなんとなく一緒に帰る。
直哉に優恵との用事があったり颯に用事があれば別だが、基本はそんな毎日だ。
帰りにスーパーに寄り、牛乳を買って帰った。
「じゃ、また明日」
「おー、じゃあなー」
男同士の挨拶なんてそんなさっぱりしたもの。
適当に片手をあげて、戸建ての家に入る。
「ただいま」
「おかえり。牛乳ありがとーう!」
パタパタと走ってきた母親に、直哉は袋ごと牛乳を渡すと冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルを出す。
「いーえ。ちゃんとレシート入ってるから金返してよ」
「わかってるって。……お父さんには内緒でちょっと多めに渡すから許して?」
「……わかった。じゃあ出来たら呼んで。俺部屋にいるから」
「わかったわ」
そのままリビングを出て、階段を登ろうとした時に
「……あ、直哉?」
と呼び止められた。
「ん?」
「昨日お家にお邪魔したお友達、……優恵ちゃんだったっけ? 今度はうちに呼んでね」
「え?」
「直哉が好きな女の子、お母さんも会ってみたいから」
「なっ……」
思わぬ攻撃に直哉はうろたえ、そんな直哉を見て母親は小さく笑う。
(なんでバレてんだよ……!?)
今まで颯の名前ばかり出ていたのが、急に優恵の名前が出るようになった。
親というのは、そんな些細なことで子どもの気持ちまで敏感に感じ取ってしまうようだ。
「どんな子かなあ。可愛い子かなあ? 楽しみ。じゃあ、できたら呼ぶわね」
顔を赤くする直哉は、どんな顔でリビングに戻ればいいのかがわからなくて困惑する。
(いや、親にバレてるとか俺ってそんなにわかりやすいのか……?)
たまらず颯に
"なぁ、俺ってそんなにわかりやすい?"
とメッセージを送ると、何の話かも言っていないのに
"優恵ちゃんのこと? まぁバレバレだと思うけど。優恵ちゃんにもバレてんじゃない?"
と返ってくる。
「えっ!? 優恵にも……!?」
そんな独り言を言ってしまうくらいには、動揺してしまっていた。