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「直哉くん。またいつでも遊びにきてね」

「待ってるよ」

「ありがとうございます。ご飯もおいしかったです。ごちそうさまでした」

「いーえ。ご家族によろしくね」

「はい。じゃあ、失礼します」

「私、そこまで送ってくる」

「わかった。気を付けてね」

「うん」


 直哉は結局その日、たっぷり夕方まで原田家にいた。


「うちの親がごめんね、なかなか帰したがらなくて」

「いや、俺も楽しかったよ。それにご飯が美味しかったのも本当」

「ふふ、お母さん喜ぶよ。ありがとう」


 夕暮れ時の空は、茜色が眩しいくらいに煌めいている。
その下を並んで歩きながら、夏の空気を感じていた。


「……そろそろ暑くなりそうだね」

「だな。優恵は夏休みは? 何してるんだ?」
「特に予定は無いよ。去年までは引きこもりみたいなものだったし、友達もいなかったから勉強しかしてなかったけど……」

「今は友達もできたんだろ?」

「う、うん。二人だけだけど」


 友達が二人しかいないなんて恥ずかしいだろうか。
そう思って苦笑いする優恵だが、直哉は全く気にしないどころか


「ゼロから二人に増えるって、すごいことじゃん。しかも俺もいるから三人だろ?」


 ニカっと笑ってくれる。


「うん。三人だね」


 その屈託の無い笑顔に優恵がものすごく救われていることを、直哉は気が付いていない。


「じゃあ、私はこの辺で。今日はありがとう」

「こちらこそ、ありがとう」


 じゃあまたね、と手を振ろうとした時。


「なぁ、優恵」

「ん?」


 呼び止められて首を傾げた。


「優恵が迷惑じゃなければ、なんだけど。……夏休みも俺と会ってくれないか?」


 そんなに改まって言うことなのだろうかと思いつつも、優恵は微笑みながら


「うん。いいよ」


 と返事をする。
それに舞い上がりそうなほどに嬉しい直哉はその興奮をぐっと鎮め、


「ありがとう。じゃあまた連絡する」


 と少し余裕ぶってかっこつける。
今度こそ手を振り、優恵は来た道を戻る。


 直哉はそんな優恵の後ろ姿を見つめ、はやる気持ちを抑えながら珍しく駆け足で家まで帰っていった。