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四年前の春。
優恵と龍臣が事故にあった日のこと。
優恵の母親は、自宅で夕飯の準備をしていた。
「アイス買いに行くって言ってたけど……遅いわね」
時計を見ると、すでに見送ってから三十分以上は軽く経過していた。
いつも通り、アイスなら少し離れたコンビニに行っているだろう。
そこはアイスを食べながら歩いたとしても、往復で二十分もあれば帰ってこれる距離。
「さては、どこかで寄り道してるな……」
もうすぐ出来上がるカレーライス。
それを見つめながら、彼女は二人を迎えに行こうかと準備をした。
──その時だった。
「ん? 電話?」
固定電話が鳴り響き、それに出る。
すると、
『原田さんのお宅ですか?──』
一瞬にして全身の血の気が引いた。
病院に駆けつけた時、同じように龍臣の母親もやってきていた。
「どういうことなの!?」
「わからない! だけど、二人でアイスを買いに行ったのよ、帰ってこないから迎えに行こうかと思ったら、連絡が!」
「とにかく行きましょう!」
優恵の母親と、龍臣の母親は違う場所に案内された。
優恵は手当を終えて病室にいた。
しかし、龍臣は。おそらくその時に、脳死を言い渡された。
優恵はまだ眠っており、擦り傷程度で大きな怪我はないと聞いた。
そして、どうやら轢かれそうになった優恵を龍臣が庇ったということも。
優恵の父親も連絡を受けて駆けつけて、そして二人で龍臣のところまで向かった。
そこの病室に近付くと、悲痛に泣き叫ぶ声が聞こえてきたのだ。
「なんでっ……!? 脳死って、どういうことですか!? だってっ龍臣、こんなに温かいのに! どういうことですか!?」
「龍臣は助かりますよね!? 助けてくれますよね!? 先生! なんとか言ってください! お願いします!」
「まだ龍臣は中学生なんです! 十二歳なんです! 人生これからなんですよ! 先生! 助けてくださいっ! お願いしますっ……!」
医者の男性に掴み掛かり泣き叫ぶ龍臣の両親が目に入った時。
優恵の両親は、その場から動くことができなくなった。
「……お父様、お母様、残念ですが、龍臣くんはもう……」
「だから! 早く助けてよ!」
「こんなに温かいんだ! まだ生きてるんだ! どうにか助けてくれ!」
「……申し訳ございませんが、手の施しようがないのです……」
「なんっ……で……」
「嘘だろ……嘘だって言ってくれよ……!」
「龍臣……龍臣、お願い、目を覚まして……お願いよっ……」
「龍臣……起きるんだ。起きてくれ」
「龍臣ぃ……! っ、いやあああぁぁぁあぁあぁ!!」
その叫び声を聞いて、二人も泣き崩れた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。優恵を助けてくれたばっかりに、こんなことに……」
病室の外でそう言い続ける母親の声は、叫び声にかき消されて聞こえなかった。
それからどれくらいの時間が経ったのか、現実を受け入れるしかなかった龍臣の両親は、放心状態のまま医者からの説明を受けていた。
「……これは、俺たちが聞いていい話じゃない。行こう」
「う、ん……でも……」
「今俺たちが顔を出したところで、龍臣くんがどうこうなるわけじゃない。むしろ、あの二人を刺激してしまうだけだ」
「だって……」
「ひとまず、優恵のところに戻ろう。もしかしたら優恵が目を覚ましているかもしれない」
二人で支え合って、優恵の病室に戻った。