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「ご飯できたわよー」
「あ、はーい!」
母親の声に返事をした優恵は、時間を忘れてゲームに没頭していたことに気がついた。
「ごめん、お茶のおかわりも出し忘れてた」
「いやいや、俺の方が集中しちゃってたから大丈夫。充電器まで借りちゃってごめん」
「いいよいいよ、気にしないで。このまま少し充電しておく?」
「いいのか?」
「もちろん。じゃあそれはそのままにして、リビング行こう」
「うん」
直哉のスマホは充電器をさしたままにして、一緒にリビングに向かう。
「おまたせ。直哉くん、こっち座って」
「どうぞー」
「あ、はい。ありがとうございます」
ダイニングテーブルには文字通りたくさんのご馳走が並んでおり、優恵は直哉の隣の席に座りつつ
「私の誕生日並みの豪華さ……」
と思わず呟き、直哉が小さく吹き出す。
「直哉くん、お茶でいいかな?」
「あ、はい!」
お昼だからか、メニューはピザやグラタン、パスタなど、イタリアンが中心だ。
それは事前に優恵が直哉の好きな食べ物を聞いていたからで、直哉は驚きつつもその美味しそうな香りにお腹が鳴りそうになる。
「まぁ、まずは食べよう」
父親の声を合図に、みんなでいただきますと手を合わせて食べ始めた。
最初は直哉の自己紹介がてら優恵の両親がいくつか質問をする形で話を進めていった。
「それで、優恵から色々と話を聞いたんだけど……心臓移植を受けたって」
「はい。中学一年の春に受けました」
「そう。それで記憶も一緒に移ってきたって聞いたんだけど、どういうことなのか聞いてもいいかな?」
「はい。少し長くなりますけど大丈夫ですか?」
「もちろん」
頷いた両親に、直哉は咳払いをしてから姿勢を正し、優恵にしたのと同じ話をした。
優恵の両親はその話を一言も逃さないように聞き、そして全て聞き終えて涙を流した。
「それで、優恵さんに龍臣くんの想いを伝えたくて。自己満足でしかないのはわかってたんですけど、命日に事故現場に行きました」
「……そこで、私に会ったの」
「そうだったのか……」
「直哉くん、本当に苦労してきたのね」
「まぁ……ほとんど病院から出たこともなかったので、急に外の世界に出て知らないことばかりで困ることもあります。四年も経ったのにまだ発作の感覚が抜けなくて怖くなるし、運動とかは今でもほとんどやってません」
実は高校でも体育の授業は特例で免除してもらってるんです、と笑う直哉に、三人も微笑む。
「つらいことを話してくれてありがとう」
「いえ、そのために今日来ましたから」
「……そうね。じゃあ今度は私たちから。どこから話せばいいかな……」
「事故のことから、お願い」
「そうね。じゃあ、そこから」
優恵の声に頷いた母親は、深く息を吐いてから上を向き、絶望と希望が入り乱れてぐちゃぐちゃになった記憶の蓋を開けた。