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 そして迎えた日曜日。


「お邪魔します……」

「直哉くん。いらっしゃい」

「初めまして。優恵の父と母です」

「初めまして。佐倉 直哉といいます。今日はお招きいただきまして……」

「ふふ、固い固い。忙しいのに呼びつけてごめんなさいね?」

「あ、いえ……」


 優恵の自宅に、直哉が足を運んでいた。
緊張した面持ちの直哉と、そんな直哉を見て微笑ましい表情をする優恵の両親。

 優恵はそんな三人を見ながら、


(オミはもういないのに、オミの心臓を持つ直哉くんがうちにいる。……なんか、よくわかんないけど不思議な感じ)


 となんだか落ち着かなくてそわそわする。


「あのっ、これ。うちの母親からです」

「まぁ、わざわざありがとう。お母さんに後でお礼のお電話してもいいかしら。あら、でも今どきって個人情報に厳しいしそういうことってあんまりしないのかしら……?」

「あ、母に伝えておきますので大丈夫だと思います……!」

「ごめんなさいね。ありがとう。ぜひお願いね」

「はい」


 直哉から手土産のケーキを受け取る母親も、なんだかいつもよりそわそわしているようだ。


「直哉くん、とりあえずまだご飯できてないみたいだから、私の部屋行こう」

「あ、うん。わかった」

「じゃあできたら呼ぶわね」

「うん。あ、飲み物もらってくね」


 優恵は冷蔵庫から出したお茶をグラスに注ぎ、待っていた直哉を連れて自室に向かう。


「お邪魔します……」

「荷物、適当にその辺に置いておいていいからね」

「わかった。ありがとう」


 優恵の部屋はどちらかというとモノトーンに近い配色の家具が多く、落ち着いた印象の部屋だった。


(女の子の部屋って、初めて来た……)


 それも好きな子の部屋だと気が付くと余計に緊張してくる。


(じろじろ部屋見たら引かれるよな……でも気になるし……え、みんな女の子の部屋来た時ってどうしてんだろ……あぁ、昨日のうちに誰かに聞いておくんだった……!)


 直哉の頭の中はパニックになっていたものの、あまり表情には出ておらず優恵は全く気が付かない。

 それどころか


「この部屋椅子無いからそっち座っていいよ」


 と無意識に直哉をベッドに誘導する。


「あ、うん」


 あまりの緊張に直哉は動きが固くなりつつも、ベッドに腰掛ける。
ふわりとした女の子らしい香りがして、龍臣の心臓がドクドクと大きな音を立てた。

 優恵が渡したグラスを受け取り、ちびちびとお茶を飲む直哉はしばらく何も喋らずに静かにしていた。

 優恵はそんな直哉の隣に腰掛けると、直哉の顔を覗き込む。


「直哉くん。もしかして……緊張してる?」

「え……いや……うん、かなり」


 一度否定しようとしたものの、誰がどう見てもいつもと違う様子に嘘はつけないと悟り、頷く。

 そんな直哉を見て、優恵は


「実は私も。オミ以外の男の子を家に呼んだのも、部屋に入れたのも初めてだから。ちょっと緊張してるんだ」


 と照れたように笑う。

 その表情に直哉の胸はときめいて、思わず目を逸らした。


(……やばい、可愛すぎる……やばい、どうしよう……)


 いつもの私服よりラフな部屋着姿だからだろうか。
優恵の部屋という完全なプライベートな空間にいるからだろうか。

 出会った当初はあんなに警戒心むき出しだった優恵の様々な表情が見られるようになってきたからだろうか。

 直哉は胸の高鳴りが抑えられない。

 その後お互い緊張してしまって沈黙が訪れてしまったため、気晴らしにスマホのゲームをすることに。

 実は愛子と栞に勧めてもらっていたゲームは三つほどあり、直哉のスマホにもその中の一つがインストールされていた。
パズルゲームなのだが、優恵が知らなかっただけで結構有名だったらしく、直哉も楽しんでいたよう。

 それを知って、たまにこうして一緒にプレイしたりするのが楽しくなってきていた。

 今まで龍臣としかゲームをしてこなかった優恵はしばらく慣れなくて大変だったものの、最近ようやくスムーズに指が動かせるようになってきてその楽しさを知ったようだ。

 直哉もゲームをやっているうちに少しずつ緊張がほぐれていき、次第に肩が触れ合うくらいまで近付きながら一緒にわいわい楽しんでいた。

 その声はもちろん部屋の外にまで漏れ聞こえていて、


「……お父さん、優恵が」

「あぁ。あんな声、久しぶりに聞いたな……」


 誰かとはしゃいでいる娘の笑い声を久しぶりに聞いた両親は、涙が出るほどに嬉しかった。