*****
「次、降りるから」
「う、うん……」
優恵と直哉はカフェを出た後、電車に乗って動物園の最寄り駅までやってきた。
駅から園までは歩いて十五分ほど。
改札を出て、スマホのマップを開く直哉を横目で見つめる。
『……俺、優恵の笑ったところ、好き』
ついさっきカフェで言われた言葉が、優恵の頭の中をぐるぐると回る。
そんなこと初めて言われたから、いまだにドキドキして落ち着かない。
直哉はなんてことないようにしているけれど、電車の中も今こうしている間も優恵は変に意識してしまいぎこちなくなっていた。
「……ん? こっちか? あれ?」
しかし、もう一度見てみると直哉はマップの画面と周辺を見ながら首を傾げている。
それを見たら黙っていられなくて、
「見せて」
とその画面を覗き込む。
「今ここらしいんだけど、なんかよくわかんなくて……」
「んー……多分あっち。あそこにコンビニあるからそこの角を曲がるんだと思う」
どうやら地図を読むのは苦手らしい直哉を連れて、優恵が先を歩く。
慌ててその隣に並ぶ直哉は、
(優恵と一緒に行きたいところがあるなんて豪語しておいて、地図も読めないとか情けない……)
と静かに落ち込む。
しかしそんな直哉の気持ちになど全く気が付いていない優恵は、直哉にスマホを返して自分のスマホで検索し直した。
「次は……こっち!」
と無意識に直哉の腕を掴んで連れていく。
「あ……」
「ん?」
「いや、なんでもない」
優恵は自分の手の動きにも気が付いていないようで、直哉が一人で意識して言葉を詰まらせる。
優恵は腕を掴んだまま、首を傾げつつ目的地へと進んでいった。
結局優恵に連れて行ってもらったような形で辿り着いた動物園。
チケットを出して中に入ると、オープンしたばかりだからか、平日の昼間だと言うのにそこそこ混み合っていた。
「優恵」
「ん?」
「はぐれないように……手、繋いでもいい?」
「え……?」
「結構人混みすごいから。も、もちろん嫌だったら別だけど……」
その手を優恵の方に伸ばしつつも、恥ずかしさに勝てずに真っ赤な顔を逸らしながら言う直哉。
そんな直哉を見て、優恵まで照れてしまう。
繋ぐべきか繋がないべきか、どうしたらいいのかわからずに口をぱくぱくさせる優恵。
そんな優恵にしびれをきらしたのか、直哉は
「ああもう!」
と何かを決意したように優恵の手を取る。
「ほらっ、こんなところで立ってたら邪魔になるから! 早く行くよ!」
「ちょっ……直哉くん!?」
直哉の勢いに圧倒されている間に、その手は直哉の手に包まれていた。
直哉の顔は真っ赤なのに、その手はひんやりとしていて驚いてしまう。
(わ、私の手……手汗かいてない? ていうか、私繋ぐなんて言ってないのに……!)
しかしそれよりも恋人同士のように手を繋いで歩いているという事実に、頭がついていかない。
対して直哉は
(やばい、やばい……勢いに任せて勝手に繋いじゃった……やばい、嫌われてない?やばい、マジでやばい)
ひたすら頭の中でやばいという単語が繰り返されており、バクバクといつもより激しく心臓が動いていることには気が付いていない。
普段ならこれほど早く動いていれば発作のトラウマから立ち止まってしまうところだが、それ以上に優恵と手を繋いで歩いているという事実の方が大事だった。