そして迎えたテスト期間最終日。
「私絶対補習だ……」
最後のテストが終わった瞬間に机に顔を突っ伏した栞。
そんな栞を愛子と一緒に励ましながら、玄関で別れて駅前に向かう。
この数日間、優恵は直哉に龍臣関係以外で誘われた理由を考えてみたけれど特に思いつかず。
愛子と栞に
『特に用事は無いのに誘われるって、どういう意味だと思う?』
と相談してみた。
二人はきょとんとした後に顔を見合わせ、そしてにやにやとしながら
『それはデートって言うんだよ』
と教えてくれた。
(……まさかね。デートなんて……)
直哉からは一度着替えてから来てと言われていたため、私服に着替えてから待ち合わせのカフェに向かう。
その道中も愛子と栞の言葉に翻弄されて緊張してくる。
優恵は友達も全くいなかった。
そのため、当たり前だが今まで彼氏なんてできたこともないし、ましてデートなんてしたことがない。
そもそもデートの仕方もよくわからないし、なぜ自分が誘われたのかもやっぱりよくわからない。
(もしかしてまた甘いもの食べにいくのかな……。女の子の友達いないって言ってたし、男の子の友達は一緒に行ってくれないらしいし……)
考えられる可能性を想像して、意を決してカフェに入った。
「優恵!」
「おまたせ」
すでに直哉は席に着いており、先に飲み物を飲んでいたようだ。
「ごめん、早く着いたから先に注文してた」
「うん、大丈夫」
「優恵はアイスティーでいい? 注文しちゃうよ」
「うん。ありがとう」
当たり前のように優恵の注文したいものを知っていることに驚きつつ、そう言えばいつも同じものを注文していたっけと思い出す。
直哉と会う時は大体龍臣のことばかり考えていた優恵は、直哉が自分のことをちゃんと見てくれていることに少し嬉しくなった。
運ばれてきたアイスティーを飲みながら、
「それで、本当に用があったわけじゃないの?」
と恐る恐る聞いてみた。
「うん。なんか、優恵に会いたくなったから」
「そ……それだけ?」
「うん。それだけ」
(……なんだ、デートじゃなくて会いたかっただけか……ん? 会いたくなった? 私に?)
発言に驚いて直哉を見ると、
「ん? どうかした?」
と不思議そうに首を傾げた。
その仕草がなんだか可愛らしく見えて、優恵は目を逸らす。
「な、なんでもない」
「そう? ……あ、これ飲んだらちょっと場所移動してもいい? 優恵と一緒に行きたいところがあるんだ」
「私と? だから着替えてって言ったの?」
「そう。時間大丈夫?」
「うん、まだ午前中だしそれは大丈夫。でも、どこ行くの?」
「これ、友達からチケットもらったから行きたいなと思って。優恵はこういうの好き?」
「どれ……」
渡された紙のチケットを見ると、半年前にオープンしたばかりの動物園の無料券だった。
「……ここ、CMで見た」
「俺も。小動物とふれあいができるらしくて、うさぎとかモルモットとかたくさんいるらしい。優恵、そういう好きだったら行きたいなと思って」
「……うん、動物好き」
「良かった。中にレストランもあるらしいから、昼はそこで食べようかと思って。どう?」
「わかった。でも、もし私がこういうの嫌いだったらどうするつもりだったの?」
「その時は……その時に考えようかと」
「ふふっ……何その無計画」
思わず笑ってしまった優恵に、直哉は目を奪われる。
急に静かになった直哉を見た優恵は、直哉が自分の顔をじっと見ていることに気が付いて動揺してしまう。
「な、なに?」
「いや……可愛いなと思って」
「……え!?」
まじまじと優恵を見て呟いたら直哉は、正気に戻ったのか顔を真っ赤にして目を逸らす。
「なに、急に……」
驚く優恵に、直哉はコーヒーを一口飲んでからふぅ、と息を吐き。
「……俺、優恵の笑ったところ、好き」
そんなストレートな言葉と共に、顔が赤いまま照れたように笑う。
「っ……!?」
今度は直哉のその笑顔に、優恵が顔を赤くする番だった。