──あれは、四年前の四月のことだった。
当時中学生になったばかり、入学式を終えてから数日。
本格的な授業が始まってすぐのある日のことだ。
「優恵!」
「オミ、おはよう。ごめん待った?」
「いや? 俺も今外出たところ。早くいこーぜ」
「うん」
優恵と同じマンションの隣の部屋に住んでいる藤原 龍臣は、幼稚園の頃からずっと一緒に育ってきた幼なじみだった。
家が隣同士だからか、親同士も仲が良く何をするにも一緒。
幼稚園も小学校も毎日一緒に通っていて、それは中学生になってからも変わらなかった。
「まだ制服って着慣れなくて。男子はいいよね、学ランって羽織ればいいだけでしょ? ラクそう」
「んなことねーよ。まぁ女子より面倒臭くはないだろうけど。俺もまだ着慣れてない」
「ふふっ、オミの制服、大きすぎてぶかぶかだもんね」
「俺も嫌だけど、男子はみんなこんなもんだって母さんが言ってたし仕方ねーだろ。成長期が来たらあっという間にぴったりになるから見てろよ?」
「うん、楽しみにしてる」
新入学でぶかぶかの制服を着ていた龍臣は、優恵と同じくらいの背丈で男の子にしては小柄だった。
優恵はそんな龍臣と一緒に歩く時間がすごく楽しくて大好きだった。
「そういえば明日から部活見学始まるね。オミはやっぱりサッカー部?」
「あぁ。もう入部決めてるって顧問の先生に言ったら、明日から練習参加させてくれるって言ってた」
「え! すごいじゃん! 良かったね!」
龍臣は、小学生の頃から地元のクラブチームに所属してサッカーをしていた。
中学に入ったらサッカー部に入部するんだと張り切っていたのを優恵ももちろん知っていた。
「だから明日からは一緒に帰れねーけど。朝も練習あるらしいから一緒に登下校できるのは今日が最後かもな」
「そっかー。なんかちょっと寂しくなるけど、仕方ないよね。頑張ってね。応援してる」
「さんきゅ。そういう優恵は? 部活入んねーの?」
「私はまだ迷ってる。吹奏楽も気になるしー、ソフトテニスも気になるし。料理部とか写真部もあるんだって」
「うちの学校中学にしては部活に力入れてるって聞くからな」
「うん。だから明日からの見学で色々回って考えるつもり」
「そうか。いいところ見つかるといいな」
「うん。ありがと」
そんな会話をしながら歩いていると、あっと言う間に学校に着いていた。
龍臣とは違うクラスだったけれど、今まで一緒に登下校するのが当たり前だったからそこに違和感はない。
だけど周りは違うようで、入学して数日だというのに
"付き合ってるの?"
と散々聞かれていた。
それに否定しながらも、中学生にもなるとそんな話題が出てくるのかと驚いていた。
優恵はただ龍臣と一緒にいるのが当たり前だっただけで、そこに深い意味はなかった。
それは龍臣も同じだろう。
しかし、周りはそれをよしとはしてくれないのだ。
龍臣は中学に入ってからやけに女子生徒からの人気が出始めていた。
かっこ可愛いなんて言われて、優恵のクラスでもかっこいい男子と言えば?でまず名前があがる。
その時に、もしかしたら近いうちに龍臣に可愛い彼女ができたりするのかなと初めて考えた。
そしてそれを嫌だと思ってしまう自分がいることに気が付いたのだった。
だからと言ってその気持ちの名前なんてわからなくて、優恵はもやもやしながらもしばらく一緒に登下校できなくなることが寂しいんだと結論づけていた。