*****
その日の放課後。
優恵は愛子と栞に連れられ、駅前のカフェへやってきた。
「さぁゆえち! 今日こそはあの待ち伏せ彼との関係を聞かせてもらうからね!」
「ま、待ち伏せ彼……?」
「まぁまぁ栞、まずはケーキでも食べない? ここのタルト美味しいってお母さんが言ってたよ」
「本当!? 食べよ食べよ! 私フルーツタルトがいい! ゆえちは?」
「私は……いちごタルトかな」
「わかるー! 王道いいよね!」
「私はブルーベリーのタルトにしよーっと」
三者三様でケーキを選び、注文すると数分で飲み物と一緒に運ばれてくる。
「いただきます」
三人で手を合わせて一口ずつ食べながら、会話を再開した。
「結局彼とは付き合ったりしてないんだっけ?」
「付き合うなんてっ……全然、ただの友達だよ」
「あれ、この間は知り合いって言ってたのに、やっぱり友達に昇格してる!」
「本当だ!」
(昇格……とは……)
二人の勢いに優恵は若干引き気味だ。
「中学の同級生とか?」
「ううん」
「じゃあ何繋がり?」
変に誤魔化しても不自然だと思った優恵は、少し考えてから
「……道端で出会った人……かな」
と答えた。
「っ、道端!?」
「待ってどういうこと!?」
(……あれ、言葉選び間違えた……?)
優恵は全く嘘はついていないのだが、普通の人はおそらく納得しない答えだろう。
愛子も栞も驚きすぎて喉にケーキを詰まらせそうになったらしく、慌てて飲み物で流し込んでいた。
どう説明したらいいのだろう。
優恵は再びしばらく考えたものの、
「そこは……色々と事情があって……」
上手い言葉が出てこなくてそう濁すしかなかった。
(まさか、自分のせいで死んだ幼なじみの命日に出会いました、だなんて。ましてその人は幼なじみの心臓を持っている人でした、しかも私に会いにきて知り合いました、なんて。言えるわけがない。というか言ったとしてもまず信じてもらえるはずがない)
優恵の頭の中は忙しい。
二人のことを信用していないわけじゃない。
ただ、話すことで二人が離れていくことが怖かった。
「そっかー……なんか、フクザツな事情があるんだね?」
「優恵ちゃんも色々抱えてるんだね……」
愛子も栞も何かを察したのかそれ以上深く聞くことはなく、話題は移り変わっていく。
それにホッとしながらも、
(……でも、このままでいいのかな……)
そう、自分に疑問を投げかけるのだった。
二人と別れて家に帰ると、母親が作る夕飯の良い匂いがした。
「ただいま」
「おかえりー。遅かったわね」
「……うん。その、友達とカフェに行ってて……」
そう告げると、母親は一度動きを止めた後に
「……友達……!?」
と嬉しそうに優恵の元へ駆け寄ってくる。
「友達ができたの?」
「うん。二人。愛子ちゃんっていう子と、栞ちゃん」
本当は直哉という友達もできているのだが、優恵はそれは黙っていることにした。
「そう、そう! 良かったわ」
「……でも、事故のこととかは何も言えてない」
「そっか。うん、わかった。でも、お母さん嬉しい」
ずっと優恵に友達がいないことを心配していた母親は、優恵の表情が最近コロコロ変わることには気付いていた。
この四年間、静かに勉強してるくらいでほとんど何にも興味を示さずにいたのに、最近はスマホをよく触ったり休日に出かけたりと何かが変わってきているのを見守ってきた。
それが、友達ができたからだとわかり全てが繋がった気がして嬉しくなる。
「いつでも家に呼んでいいからね。お母さん、おもてなししちゃうから」
「やめてよ。それに、お母さん普段仕事でいないでしょ」
「じゃあ土日! 土日ならいくらでも歓迎よ!」
「もう……まだそんな、仲良くなったわけじゃないし……」
「うん、じゃあ仲良くなったら、いつでも呼んでね」
「……うん。ありがとう」
荷物を置いてくるために部屋に戻る優恵を見送り、母親はうっすらと滲む涙を急いで拭う。
「……今日はお祝いね。優恵の好きなもの増やそう」
そう呟いて、微笑むのだった。