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六月に入ると、一気に梅雨入りして外は蒸し暑くなる。
ジメジメとした空気は、優恵の心までをも暗くさせていく。
こんな時はお気に入りの傘を持って歩くといいのだろうけれど、生憎優恵はそんなものは持ち合わせていない。
もう二年ほどお世話になっているシンプルなビニール傘を差して、学校に向かう。
その道中で横を通った車が水たまりを跳ね、優恵のローファーとハイソックスが濡れてしまった。
「うわ……最悪」
一気にびしょ濡れになってしまった足を見て、みるみるうちにやる気を失って立ち止まった。
(このハイソックス、おろしたてだったのに……)
新品を雨の日に履く方が悪いと言われそうだが、天気が悪いからこそ些細なところで気持ちを上げていきたい優恵にとっては一大事。
(もういいや、今日は休もう……)
とは言え、今すぐに帰るとまだ出勤前の母親がいるだろう。
ただでさえ優恵のことをひどく心配している。
今帰ったら仕事を休むなんて言いかねない。
母親が仕事に行くまではどこかで時間を潰そう。
そう思って近くの公園に入った。
東屋がある公園は、雨が降り続いているため当たり前だが誰もいない。
優恵は東屋の中に入り、なんとか濡れていないベンチを探してそこに座った。
テーブルに荷物を置いて、雨を見つめながらため息をつく。
(そうだ、学校に連絡……は別にいいか。それより愛子ちゃんと栞ちゃんに連絡しないと)
あれから毎日のように一緒にお昼を食べてくれる二人に、
"今日は具合が悪いから休みます"
と適当な理由を作って送る。
するとすぐに二人から
"わかったよ〜お大事にね!"
"ゆえち大丈夫? 無理しないでね! 今日の分のノートは愛子と一緒にゆえちの分も書いておくね!"
と返事がくる。
……なぜだろう。
今までなら何も感じなかったのに、二人にこんな小さな嘘をつくことがものすごく悪いことに思えた。
(……現に、悪いことではあるけど)
"ありがとう"
とだけ返事をして、優恵はスマホを制服のポケットの中に戻す。
鉛色の空を見つめていると、そういえば小学生の時もこんなことがあったなと思い出した。
(小学校からの帰りに鍵を忘れてこの東屋で時間潰してたんだっけ。確かあの時は……)
(そうだ、途中でオミが偶然通りかかって……)
そう思い出してほんの少し口角を上げる。
──すると。
「……あれ? 優恵?」
「……え?」
雨の中、聞き覚えのある声に顔を上げた。