「優恵? 具合悪い?」
「……え?」
「手、止まってるわよ?」
「あ……ごめん。ちょっと考え事してた」
優恵は目の前に並ぶ夕食を見ながら、食べることもせずに物思いに耽っていた。
「大丈夫? 最近ぼーっとしてること多いけど。学校で嫌なことあった?」
「……ううん。そうじゃないの。ただ、最近いろんなことがあって頭が追いつかなくて」
「……そう。もし何かあったらすぐ言ってね。お父さんもお母さんも、何があっても優恵の味方だからね」
「いつでも話聞くからな」
「うん。二人ともありがとう」
優恵の両親は、優恵の心の変化に敏感だ。
それもそのはず。幼馴染を目の前で亡くし、その後塞ぎ込み学校に通えなくなってしまった優恵をずっと見てきたのだ。
高校に入学してようやく毎日通えるようになった学校。
優恵の両親はそれに安堵しながらも、まだ優恵の心が何も癒えていないことは知っている。
地元の知り合いがいない学校とは言え、噂はいつどこで誰から広まるかはわからない。
それが原因でまた傷つくようなことが起きないかどうか心配で心配で仕方ないのだ。
何事もなかったかのように手を動かし始める優恵を見て、ようやく顔を見合わせてから二人も食事を再開する。
『これは俺の推測だけど。きっと、龍臣は優恵のことが好きだった』
直哉の言葉が、頭の中をぐるぐると回る。
龍臣が、優恵のことを好きだった。
直哉の想像でしかないものの、その言葉は優恵にとっては何よりも嬉しいものだった。
直哉から話を聞いて、家に帰ってきてから泣いてしまったほどだ。
あれから一週間ほどが経ち、もうすぐ五月が終わる。
あれ以来、直哉からの連絡はない。
優恵からも連絡することは特に無く、このまま自然と元々の他人に戻るのかもしれない、と漠然と考えてしまう。
そう思うと、少し胸がちくりと痛んで、優恵は手を止める。
(なんで……痛むの?)
そんな優恵を、両親はずっと心配そうに見つめていた。