「医者からもドナーの親族に接触するのは御法度だって言われてるし、俺もそう思った。だけど優恵ならセーフだとも思った。だから、ずっと探してたんだ。それで実際にあの事故現場で会えた時、奇跡が起こったと思ったよ。会ったことも見たことも無かったはずなのに、一目見て優恵だってわかった。あぁ、やっと会えたって。ようやく会えたって」

「……だからあの時、あんなに嬉しそうだったんだね」

「うん。嬉しかったよ。ホッとしたし、やった! って思いもあったし。まぁ、でもすぐにどうやって俺のことを信じてもらおうっていう悩みに変わったけど。実際龍臣の予想通り優恵はめちゃくちゃ自分を責めてるみたいだったし、俺のことも警戒しまくるし。ま、当たり前のことだろうけど」


 ケラケラと笑う直哉は確かにあまりにも線が細いけれど、たった数年前まで生きることを諦めていたようには見えなかった。

 その諦めを覆すような希望を、龍臣の心臓が与えたと言うのか。
それもその希望が、優恵を探すことだったなんて。
そう思うと、全身が震えるような気がした。

 優恵はじっと直哉を見つめた後、手を伸ばして直哉の手に触れる。


「……ん? どうした?」

「……あったかい」

「うん。そりゃあ、生きてるからな」

「うん。……オミの、心臓が動いてくれてるから。なんだよね」

「……信じてくれんの?」


 こくりと頷く優恵は、


「……私とオミしか知らないはずの会話を直哉くんが知ってるってことは、そういうこと。……ありがとう。私を探してくれて。オミの願いを叶えようとしてくれて、本当にありがとう」


 涙を堪えながら笑う。
そして、


「オミのこと、オミが考えてたこと。オミが私に伝えたかったこと。全部教えて欲しい。……私、オミに何も感謝を伝えられていないの。いつも助けてもらってばっかりで。オミに、何も返せないままいってしまった。だからせめて、オミの気持ちだけでも知っておきたい。わがままかもしれない。だけど、全部教えて欲しい」

「……わかった。その代わり、俺にも優恵の知ってる龍臣のことを教えてよ。」

「え?」

「なんかもう、龍臣の存在自体が俺の一部になっちゃってる感じなんだ。だから、俺も龍臣のことを知りたい。いいだろ?」

「……うん」


 それからしばらく、スイーツバイキングの会場を出た後も近くのカフェに入り、日が暮れるまで二人は龍臣の話をした。

 優恵は幼い頃からの記憶。ずっと一緒にいた思い出話。直哉は覚えている限りの龍臣の記憶。今でも稀に聞こえてくる、声のこと。