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「俺はそれまで無気力で、ずっと生きることを諦めてたんだ。だから、常にポジティブで優恵のことだけを想ってる龍臣のことがすごいと思ったし、そこまで龍臣に想われてる優恵に会ってみたくなった。龍臣が伝えたかったこと、代わりに伝えたいと思った」

「……」

「龍臣は優恵を助けたことを後悔なんてしてない。唯一悔やんでることは、優恵の無事を確認できないまま力尽きてしまったこと。それと、気持ちを伝えないまま亡くなってしまったこと。それから、優恵とこれからを一緒に生きていくことができない。ただそれだけだ」

「そんな……」

「俺も事故の記事を新聞で読むまで信じられなかった。他人の記憶が身体に入ってくるなんて、普通に考えたら頭がおかしくなったかと思うだろ? 俺も実際に自分がおかしくなったと思った。だから信じたくなかったのかもしれない。だけど、それを認めてみたら一気に楽になったよ」


 そう微笑む直哉に、優恵は言葉を失う。


「でも四年も経つと、さすがに心臓も俺の身体に馴染んできてるのか、声が聞こえることは段違いに減った」

「そう、なの?」

「あぁ。だけど、俺は諦めたくなくて。優恵をずっと探してた」

「それは、オミのことを私に伝えたかったから?」


 直哉が不意に優恵に向ける視線はすごく優しくて、優恵はどくんと胸を鳴らす。


「そう。なんだろうな。急にこれから長い人生を生きてもいいって言われて、何をどうやって生きていけばいいのかわからない時に、俺に希望を見出してくれたのが龍臣だったんだよ」

「……希望」

「そう。どこに向かえばいいのか、何を目指せばいいのか悩む俺に、まず目先の目標をたてさせてくれたんだ」


 優恵を探す。そして龍臣の気持ちを伝える。
それがただの自己満足であろうとも、命を繋いでもらった直哉にとってそれは精一杯の誠意であり、自分にしかできない使命のようにも感じていた。

 そしてその思いの根底には、


"優恵、どうか自分のことを責めないで"

"優恵は悪くないんだ。だけど、きっと優恵は俺が死んだら馬鹿みたいに泣く"

"あいつはすぐ自分を責める。優しすぎるんだよ。でも、俺は全く恨んでないし後悔もしてない"

"それを、伝えられたら良かったのに"


 そんな、龍臣の強い気持ちがあった。