直哉は記憶が転移したということを身をもって実感しながらも、その意味を考えていた。

 どうしてここまで強く龍臣の記憶が残ったのだろう。


"優恵に気持ちを伝えたい"

"優恵は無事だったのか?"


 毎日頭の中に響く声は、優恵のことばかり。
おそらく優恵の無事を確認する前に亡くなってしまったのだろう。龍臣は亡くなるその瞬間まで、ずっと優恵の無事を知りたくて祈っていた。

 しかし、そこに優恵を責めたり後悔するような言葉は一つもなかった。


"優恵を守れたんなら、それでいい"

"とにかく無事かどうかだけ知りたい"

"優恵は必ず俺が守る"

"それで、優恵に気持ちを伝えるんだ"


 龍臣の記憶は、常にポジティブだった。

 どうして事故に遭ってしまったんだとか、まだ死にたくなかっただとか。そんな思いがどこかから溢れてきてもいいはずなのに、龍臣の記憶には一切それがなかった。

 もしかしたらそんなことを感じる間もなかったのかもしれない。

 直哉が感じ取れるのは、あくまでも龍臣の記憶。
無くなる直前までの龍臣の想いだけだ。

 その龍臣は、常に優恵のことを一番に考えていて、それ以外はどうでもいいとでも言っているように聞こえた。

 驚くほどにいつ聞いても龍臣の中心は優恵で、その世界は優恵で彩られていたのだろうと容易に想像できた。


(……龍臣にここまで想われてる優恵って人は、一体どんな人なんだろう)


 次第に直哉はそう考えるようになり。
人をそこまで一途にさせる人物が、すごいと思う。
それと同時に、誰かをそこまで一途に思い続けられることが羨ましくも感じた。


(……会ってみてぇな。優恵に。それで、龍臣の代わりに龍臣の気持ち、伝えてやりたい)


 そう、考えるようになった。