しかし、


"優恵にもうあのサンダルはやめろって言わなきゃ"

"優恵に気持ち伝えてない"


 どんどん心臓から声が溢れてきて、止まらない。
次第に"優恵"らしき人との会話の記憶まで聞こえてくるようになった。


"そういえば明日から部活見学始まるね。オミはやっぱりサッカー部?"

"あぁ。もう入部決めてるって顧問の先生に言ったら、明日から練習参加させてくれるって言ってた"

"え! すごいじゃん! 良かったね!"


 明日から部活、サッカー部。

 中学一年?高校一年?サッカー部ということは、おそらく男子生徒。


"幼なじみが頭悪いとか私も恥ずかしいし?"


 そうか、この二人は幼なじみなんだ。


"オミ、おはよう。ごめん待った?"


 オミ?それがこの心臓のドナーの名前か?

 優恵の声や優恵との会話の記憶から、二人のことを少しずつ知っていった直哉。
次第に頭に広がるたくさんの記憶。

 それは日を重ねるごとに減るかと思いきや、増える一方。
それを繋ぎ合わせていくうちに、この心臓のドナーが優恵とは幼なじみの中学一年生だということがわかった。

 彼は一人っ子で優恵とは幼い頃から同じマンションの隣同士に住んでおり、ずっと一緒にいたようだ。
そして何かのタイミングで優恵と出かけ、交通事故に巻き込まれそうになった優恵を庇った。
その結果、亡くなってしまったのだと。

 退院してから慌てて図書館に行って当時の新聞でその事故について調べてみると、被害者は市内に住んでいた中学生男児、藤原 龍臣だとわかった。


(オミ。タツオミだから、オミか)


 その記事は、龍臣の声が教えてくれたものと寸分の狂い無く合致した。
そしてそれがわかった瞬間。


(……記憶、転移)

(……俺に、龍臣っていう奴の記憶が移ったのか……?)


 それが、自分の勘違いや気のせいなんかじゃないということがわかり、ぞわりと鳥肌がたったのだった。