「いただきまーす」
「いただきます」


 二人で顔を見合わせてからクレープを食べると、クリームの甘さといちごの酸味が口の中で広がってとても美味しい。
思わず一口で頬が緩み、笑みが溢れる。


「やっぱうまいねこれ!」

「うん。おいひぃ」


 口いっぱいに頬張ってしまい、うまく喋れないまま直哉の方を向く。
すると、直哉はそんな優恵の笑顔を見て瞬間的に固まった。


「……ん? どうかした?」


 クレープを飲み込んでから口についたクリームを舌でペロリと舐める優恵に、今度は直哉が生唾を呑む。

 そして次の瞬間、みるみるうちにその顔が真っ赤に染まっていった。


「大丈夫? なんか顔赤いけど」


 そう覗き込んでこようとする優恵を見て正気に戻った直哉は、ぐるんと反対を向いて咳き込む。


「本当に大丈夫?」


 思わず少し心配になる優恵に、直哉は深呼吸を繰り返してから


「だ、大丈夫……ちょっと驚いただけ」

「驚いた? 何が?」


 そんな驚くことなんてあっただろうか、と優恵は周りを見渡すけれど、どこも穏やかな時間が流れておりそんな風には見えない。
そんな優恵に直哉は笑ってしまい、


「違うよ。優恵が初めて俺に笑ってくれたから。それがあまりにも可愛かったから。つい驚いただけ」

「なっ……」


 今度はその言葉に優恵が顔を赤く染める番だった。

 急に黙り込む優恵に、直哉は不安そうにその顔を覗き込む。
しかし、その表情は決して嫌がっているようなものには見えずにホッとした。


(優恵の笑顔、破壊力抜群だな。やばい、こんなはずじゃなかったのに……)


 自分の感情に困惑する直哉と、


(いやいや、この人何言ってんの? からかうのとかやめてよ……)


 突然の可愛い発言に戸惑う優恵。
しばらく二人は無言でクレープを食べ進める。
しかし、二人ともその味なんて全くわからなくなってしまっていた。