スマホを出しながら優恵が頷くのを待つ直哉は、まるで優恵と連絡先を交換するまで今日は帰らないとでも言いそうな雰囲気。
「……わかった」
(だって、帰ってくれないと困るから。それに、あくまでもオミのことを確かめるため。うん。他に意味はない)
心の中で自分自身に言い訳をしつつ、スマホを出す。
「ありがとう」
こんな短期間で連絡先を三人も交換するなんて思っていなかった。
愛子と栞と交換した時の手順をまだ覚えていたためか、今度は比較的スムーズに交換することができた。
再び新しく直哉の名前が表示されている画面をしばらく見つめる。
「どうかした?」
「……ううん。なんでもない」
「そう? じゃあ、今度からは連絡するね」
「うん。もう待ち伏せはやめて」
「ははっ、わかってるって。……なぁ、優恵。この後まだ時間ある?」
「え? うん、まぁ、あるけど」
「じゃあ、ちょっと行きたいところがあるんだけど付き合ってくれない?」
直哉の提案に、優恵は困惑しつつもとりあえず頷く。
そしてベンチを立ちあがり、二人で公園を出た。
「……ここ?」
「そう。うちの学校で話題になってて。来てみたかったんだ」
直哉の案内で来た先は、駅前。
駅ビルに?と思ったけれど、直哉はそのまま駅前に停まっているキッチンカーに向かった。
「あ、いい匂い」
「だろ? ここのクレープがすごい美味いって聞いたから。食べてみたくて」
淡い水色のキッチンカーは、駅前でも一際目立っていた。
近付くとふんわりとしたバターの香りが漂い、それを吸い込むだけでもなんだか満たされた気持ちになる。
直哉の言う通り人気なのだろう、時間帯のこともあるのか高校生が何人も列に並んでいた。
「……でも、私財布にほとんどお金入ってないから食べられないや。買ってきなよ」
買い食いなんてするつもりは無かったから、普段からあまり財布は持ち歩いて入るけれどそんなにお金は入っていない。
残念だけどと言えば、直哉はきょとんとした後に笑う。
「何言ってんの。そもそも俺が誘ったんだから俺の奢りに決まってんじゃん。ほら、一緒に並ぼ」
「え!? でも」
「いいからいいから。優恵は何が好き? 俺はいちごが好きだからあのいちごダブルクリームにしようかと思うんだけど」
「え……あ、私もいちご好き……」
「ほんと? 一緒じゃん! じゃあ同じのにする?」
「うん。あ、でもあれ高いからやっぱ他のに……」
「そんなの気にしなくていいから。ほら、もうすぐ順番だからちゃんと並んでて」
「はい……」
直哉の勢いに負けて、そのまま八百円もするいちごダブルクリームのクレープを買ってもらった。
「はい、ありがとうございます」
そうお店のお姉さんに渡されたクレープは、たっぷりの生クリームとカスタードクリームの中にいちごが見える。
ふわりとする甘い香りに、ごくりと喉が鳴る。
「あっちにベンチがあるんだ。行こう」
「うん」
落とさないように気をつけながら少し離れたところにあるベンチに向かう。
混んでいるかと思ったけれど、ちょうど一つ空いていてそこに腰掛けた。