「……あ」
数日後、優恵が放課後に校舎を出るとまた門の前に誰か待ってる他校生がいるという声が聞こえてきた。
嫌な予感がしつつもそこに向かうと、案の定直哉の姿があり見つかる。
「優恵! 良かった。会えた」
「……」
前回ほど騒がれてはいなかったものの、やはり視線は感じる。
優恵はため息をつきながらも直哉と並んで歩き出した。
「……で、今日は何の用?」
前回と同じ公園で、前回と同じようにベンチに腰掛けて問いただす。
すると直哉は困ったように頭を掻き、言いにくそうに口籠る。
「いや……うん、その……」
「なに?」
「……れ、連絡先っ、を、教えてほしくて……」
「連絡先?」
「うん、そう。ダメ、かな」
優恵の顔色を伺うように覗き込んでくる直哉に、今度は優恵が困ったような顔をする。
"次会った時は連絡先聞かれると思う!"
愛子の言葉が蘇る。
「……別にダメじゃないけど……でも、なんのために?」
「そりゃあもちろん、龍臣のことを信じてもらいたいから。そのためには優恵に会わないと始まらないだろ?」
「まぁ、そうかもしれないけど」
「それに、待ち伏せするのも大変だから。優恵の学校の生徒や教師の人たちに迷惑はかけたくないし。優恵に嫌われたくないしね」
「……迷惑かけてる自覚あったんだ」
「そりゃああそこまで騒がれちゃうとね。それに優恵、前回も今日も俺と目合った瞬間すげぇ嫌な顔してたから。迷惑なんだろうなとは思ってた。だから、連絡先交換しちゃえばどこかこういうところで待ち合わせもできていいかなって思ったんだ」
「私が待ち合わせに応じる前提で話してるけど」
「もちろん。だって、優恵にとっても龍臣は大事な存在のはずだから」
はっきりとそう言い切った直哉に、優恵はごくりと固唾を呑みこんだ。
「ははっ、なんでわかるんだって顔してる」
「っ……」
「そんなの簡単だよ。最初、龍臣の名前を出しただけで優恵は目の色を変えた。それを見たら、誰だってなんとなくはわかる」
そう柔らかく目尻を下げる直哉に、優恵は何も言えずに黙ることしかできなかった。
「だから、連絡先教えてよ」
「……それだけのために、わざわざうちの学校まで来てまた待ち伏せしてたの?」
「そう。あとは純粋に優恵に会いたかったから来た」
「なっ」
「でも休みだったらどうしようとか考えてたから、会えて良かったよ。目立つような真似してごめんね」
優恵が見えた時すげぇ安心した。
と笑う直哉に、優恵はなんだか胸が高鳴ったような気がした。
会いたかった。多分、そんな風に言われたのは初めてだ。
この間から、なんだかおかしい。
直哉に出会ってから、人との交流が増えている。
愛子と栞と友達になってからというもの、クラスメイトでも優恵に挨拶するようになったり話しかけたりしてくる生徒が増えた。
どうやら今までは高嶺の花的存在だったらしく、二人と普通に喋っている姿を見て自分も!となった人が何人もいたらしい。
今までモノクロのように何の楽しみもなくただこなすだけの毎日だった世界が、ほんの少し色づき始めたような、そんな気がした。
偶然なのはわかっている。だけど、直哉との出会いが確かに優恵の人生を変え始めていた。