話題はいつしか直哉のことに移り変わり、二人は顔を見合わせる。


「でもさ、ただの知り合いが学校まで来て待ってるって、只事じゃなくない?」

「確かに。優恵ちゃんに会いたいなら、連絡すればいいだけなのにね」

「ねー、今どき学校の前で他校生が待ってるとか少女漫画みたいでドキドキしちゃう!」


 そう言われて初めて、


「あ……連絡先とか知らないから、だと思う」

 そういえば名前や素性は教えてもらったけれど、連絡先は全く知らないことに気がついた。

「え!? そうなの!?」

「なんで!? 交換してないの!?」

「う、うん。してないしそんな話になったこともない」

(まぁ、まだ知り合ってから数えるほどしか日にち経ってないから当たり前だと思うけど……)


 直哉の素性を説明すると長くなるし、自分でもはっきりと信じていないことを説明するのは難しい。
そう思っていると、栞がにやけた視線を送ってきた。


「それなら尚のこと、やっぱりその男の子、ゆえちのこと狙ってるんじゃない?」

「え?」

「愛子もそう思わない? 連絡先を知らないからわざわざ待ってるわけじゃん? それって好きだからじゃないかな!?」

「どうだろう。でもあり得る話だよね。きっと次会った時には連絡先聞かれると思う! ていうかそんな展開本当に漫画みたいで憧れちゃう!」

「いやいや、まず放課後に他校生が自分のこと待ってるってだけで私は憧れちゃうよー」


 話題はそのまま少女漫画についてに変わってしまい、二人で盛り上がっている。
優恵はそんな会話には目もくれず、直哉についてから話題が逸れたことに心底ホッとしていた。


(……そうか、放課後に他校に迎えに行くことって、そんな風に勘違いされるのか)


 もう来ないでほしい。そう思う自分と、"龍臣のことが事実ならもっと話を聞きたい"と心のどこかで思ってしまう自分がいる。

 だけど、そんな勘違いをされてしまうくらいならやっぱりもう来ないでほしい。


(とは思うけど……名前と高校しか知らないし。会えなければ来ないでって言うこともできない。かと言ってわざわざこっちから会いに行くほどのことでもないし)


 優恵は複雑な感情を抱えていた。


「ねぇ優恵ちゃん、連絡先交換しない?」

「あ、私も! ゆえち交換しよー!」

「連絡先?」

「うん! せっかく友達になれたから。ダメかな?」

「ダメ……じゃ、ないけど……」

「本当!? ありがとう!」


 嬉しそうにスマホを出す二人に倣うように優恵もスマホを出す。
正直優恵のスマホには両親くらいしかまともな連絡先は入っておらず、全く友達がいないのがこれを見てもよくわかる。

 メッセージアプリもほとんど使わないため、コード教えて!と言われてもよくわからなくてわたわたした。

 結局愛子と栞が優恵のスマホを覗き込みながら手順を教えて、十分ほどでようやく交換することができた。


「今猫のスタンプ送ったのが私」

「私も今送るよー、はい送った。私はアニメのやつ」

「こっちが愛子ちゃんで……こっちが栞ちゃん」

「そう! 何かあったらはもちろんだけど、何もなくても連絡とろーね!」

「う、うん」


 戸惑いつつも頷く優恵は、スマホに表示されている初めての友達の連絡先にしばらく釘付けになっていた。


(……なんだろう……嬉しい? そうだ。この感情、"嬉しい"だ)


次第にそう思った優恵は、顔を上げて二人を見つめる。


「……ありがとう」


 そう、ぎこちないながらに嬉しそうに微笑んだのだった。