「ううん。全然」

「え!? そうなの!? じゃあ友達?」

「友達……? いや、うーん……知り合い、なのかな」


 出会ったばかりの直哉との関係を言葉に表すのは難しくて、首を傾げながらもごもごしてしまう。
そんな優恵を見て、愛子と栞は顔を見合わせて笑う。


「……え?」

「あ、ごめん。なんか、原田さんって清楚だし物静かで落ち着いてるから、勝手にすごいお淑やかなお嬢様みたいな感じだと思ってたの。だけど、今ちゃんと話してみたら私たちと何も変わらないんだなって思って」

「親近感湧いた! ね! 原田さん! 友達になろう!」

「と、友達!?」

「私も! 優恵ちゃんって呼んでいい?」

「私はゆえちって呼びたい! 私たちのことも名前で呼んでいいからね!」


"優恵ちゃん"


 学校のクラスメイトから下の名前で呼ばれたのはいつぶりだろう。


"ゆえち"


 そんな可愛いあだ名を付けてもらったのは初めてかもしれない。
友達という響きも随分と久しぶりで、なんだかむず痒い。
だけど、本当にいいのだろうかという不安が優恵の頭を過ぎる。


(二人は勘違いしてるだけだ。龍臣のことを知れば、二人だって離れていくに決まってる)


 その時に自分が傷付くくらいなら、友達になんてならない方がいい。
大切なものを増やすと、あとで失った時につらくなるのは自分。
そうわかっているのに。


「……あ、うん。わかった……愛子ちゃん。栞ちゃん」


 友達という響きが久しぶりすぎて、思わず無意識のうちに頷いてしまっていた。

 愛子と栞の名前を呼んで、二人が嬉しそうに微笑んだ時。
優恵は泣きそうになってしまうのをぐっと堪えて下を向く。

 少しでも気を抜いたら泣いてしまいそうで、息を止めたり深呼吸をしたりと繰り返す。
そんな優恵に二人は首を傾げていたけれど、ちょうどチャイムが鳴ったため


「じゃあ優恵ちゃん、また後でね」

「ゆえち、今日のお昼一緒に食べようねー!」


 それぞれ優恵に手を振ってから自分の席に戻って行った。