「あ、おはよう原田さん」
優恵が登校すると一人のクラスメイトが挨拶をしながら話かけてきた。
その後ろからも興味津々という表情で優恵を見つめるクラスメイトが一人。
「おはよう……?」
挨拶してくれることはあれど、それ以外の会話はほとんどしたことがないため優恵は思わず身構えた。
しかし、彼女は優恵の元まで来ると
「原田さん! 昨日の男の子って、もしかして彼氏!?」
と興奮気味に聞いてくるから拍子抜けしてしまった。
「え……」
「昨日、門の前で待ってた男子のこと! 南高の制服だったよね? あれって、原田さんのこと待ってたんでしょ?」
「あ……うん。そうみたい」
まさか直哉のことを聞かれるとは思っていなかった優恵は、
(そりゃそうか……誰も私のことなんて聞いてくるわけないよね、友達でもないんだから)
と妙にそわそわしながらも納得したように頷いた。
「あ、急に話しかけてごめんね? 私──」
「あ……知ってるよ。えっと……野原 愛子さん、だよね?」
「知っててくれたの!? ありがとう!」
いつも挨拶してくれる人を知らないわけがないのに、彼女、愛子は至極嬉しそうに笑った。
「じゃ、じゃあ……私のことは知ってる……?」
「うん。間宮 栞さんだよね」
「わぁ! 嬉しい! ありがとう原田さん!」
愛子の後ろにいた栞も、嬉しそうに笑う。
優恵は二人の反応が意外で驚くものの、優恵の手を取り喜ぶ二人を見たら圧倒されてしまう。
「実はね! ずっと原田さんと仲良くなりたいなって思ってたの!」
「え?」
「私も! めちゃくちゃ綺麗で憧れてたの……!」
「憧れ……? 私に……?」
「そう! ずっとお近づきになりたいねって愛子と話してたんだ!」
「実は今も話しかけるの緊張しちゃって。でも私たちの名前覚えてくれてて本当嬉しい! ありがとう」
「いや、そんな……」
(この二人は、一体何を言ってるの?)
憧れだとか、お近づきになりたいだとか、綺麗だとか。
自分自身にそんな魅力など無いと思っている優恵にとっては、全く聞きなれない言葉。
愛子と栞は喜びを隠すことなく盛り上がりつつ、
「それで、昨日の男子って彼氏?」
と本題に戻る。