授業を終えて帰ろうと玄関で靴を履き替えていると、何やら騒がしい。
「聞いた!? めちゃくちゃイケメンがいるって!」
「聞いた聞いた! 他校の男子だって? 誰か待ってるんでしょ!?」
「マスクで顔隠れててもわかるほどのイケメンって、やばくない!?」
「彼女かなー。いいなぁ、憧れるよねー」
「ちょっと見に行こう!」
優恵を追い越して走り去っていく女子生徒を見送り、他校の男子というワードに一抹の不安を覚える。
(……まさか、ね)
違う違う。そう自分に言い聞かせながら彼女達に続くように歩き始める。
そして門の前に着いた時、
「……え」
噂の"誰かを待っている他校の男子"の姿を見た瞬間に、優恵は動きを止めた。
「……あ、いた」
「なんっ……」
それは、昨日の直哉という人物だった。
今にも消えてしまいそうなほどの儚い雰囲気も、マスクで顔の半分を隠しているように見えるのも、折れてしまいそうな線の細さも昨日と同じ。
他校の制服を身に纏った彼は、優恵を見つけると安心したようにマスクをおろし、笑って近付いてきた。
「優恵」
「な、んで」
「その制服、この辺りじゃ有名だからな」
言われて、確かにこの地域で一番制服が可愛いと言われていたことを思い出した。
彼が待っていた人物が現れたことで、好奇心からくる視線をひしひしと肌で感じる。
「あの子、誰?」
「可愛いー」
「一年生じゃない?」
そんな声を聞いて、優恵は慌てて直哉の手を掴んでその場から歩き出した。
「お、今日は俺を置いて逃げないんだ?」
「……あの状況で私だけ逃げられるわけないでしょ」
「ははっ、そりゃそうだな」
少し歩いたところに公園があり、そこに並んで入る。
ベンチに腰掛けて、
「それで、昨日から一体なんなのよ……」
そう聞くと、直哉は
「まぁ、いきなりあんなこと言われて信じられるわけないよな」
と言いながら同じように優恵の隣に腰掛けた。
「俺、佐倉 直哉」
「昨日聞いた」
「あ、そっか。じゃあ次は……歳は十五。高校一年。向こうにある南高に通ってる。地元は南高の近くで家は──」
「ちょ、ちょっとストップ。急に何?」
「何って……自己紹介?」
「なんで? 私そんなことが知りたいんじゃない」
唐突に始まった直哉の自己紹介に困惑していると、直哉は不思議そうに首を傾げる。
「いやぁ、信じてもらうには俺のことを知ってもらうのが手っ取り早いかと」
「……そう、ですか」
(意味わかんないし、からかってるだけなら早く帰りたい……)
イライラを抑えられないままでいると、直哉はそのまま続きを話し始める。
「誕生日は三月一日。身長は百七十三センチ。血液型はA型。特技はゲーム、趣味は寝ることかな」
「……」
「あとはー……」
兄弟はいなくて一人っ子だとか、親は共働きだとか。
そんな優恵にとってはどうでもいい情報ばかりが並び、次第に頭が痛くなってきた頃。
「それで、俺は小さい頃から心臓が悪くて。中一の終わりくらいまでずっと入院してたんだ」
そんな、普通に生きていれば聞くことがなさそうな言葉を聞いて、思わず顔を上げた。