「穂積くん、起きたね」

「あ、……菅田先生」

「お、久しぶりにすぐ名前呼んでくれたじゃないか。さっそくセナの効果が出ているのかな?」



 それはちょっとムカつくけれど、確かに脳裏は久しぶりにクリアだ。言葉もいつもより前に出やすい。



「じゃあ改めて説明するね」



 5月。春の陽気を孕んだ風が開け放した病室の窓から吹き込む。そうして、あの夜みたいに、セナの髪を揺らして通り過ぎていく。



「穂積くんは今、心に傷を負ってしまっているんだ」



 菅田先生はさっきセナがつついた場所あたりを人差し指で丸く示す。そうなのだろうか。自分ではあまりよくわからないけれど、先生が言うならそうに違いないのだろう。

 また、春風がカーテンを揺らす。どこかで小さな子どもたちがはしゃいでいる声がする。心じゃないどこかに傷を負った子どもたちが、はしゃいでいる声がする。



「それを癒せるのは、穂積くん、君自身しかいないんだ」

「え……?」

「君が自分のことを好きになるしか、方法がない」



 好きになる? 自分のことを?



『       』



 ——無理だ。だって、だって僕は、



「穂積くん?」



 ああ、まただ。また闇に飲まれてしまいそうになる。呼吸が荒くなってくる。動悸がする。苦しい。

 ひゅう、と息が溢れた。いつもなら、ここで菅田先生が処置をしてくれるはずだった。処置といってもまずは僕を落ち着かせるためにそっと背をさすってくれるという程度だけれど。

 でも、今回は違った。



「ホヅミ、大丈夫だよ」



 AI。彼女が——セナが、菅田先生よりも先に僕の背に腕を伸ばす。



「大丈夫」



 そしてそのまま、ぎゅう、と僕のことを抱きしめた。