夢の中で、誰かに抱きしめてもらった気がした。

 夢だからか、体温は感じなかった。だけれどもその人は、やさしく僕を包み込んでくれた。

 どこか懐かしくて、夢の中の僕はその柔らかさに縋り付いて泣いてしまった。身体の中から出ていく涙のしずくが僕らの周りを取り囲んでいた。



 ————……。




「……ッ」

「ホヅミ、起きた」

「……ちょっ、」



 次に目を覚ましたら、目の前には彼女がいた。驚いたのは彼女が目の前も目の前、僕のベッドの上によじ登って、一緒に添い寝していたからだ。目を開けたら彼女の顔がドアップ。しかも大きな瞳でこちらを見つめていると来た。軽くホラーだ。



「……びっくり、した……」

「ちょっとはびっくりしたほうがいいよ。心臓、ずっと止まっちゃいそうなほどゆっくりだったよ」



 そう言った彼女はトンッと僕の胸をその人差し指で突く。その仕草に、僕がバカにされているように感じて、ムッとして思わず言い返した。



「余計なお世話だよ」

「わ、しゃべった」

「……しゃべれないわけじゃない」



 ただ、人とコミュニケーションをとるのがストレスになるだけで。ストレスがたまると発作が起きるから、できるだけしゃべらないようにしているだけで。

 なのにこのロボットは、僕を見て「ふーん、じゃあしゃべればいいじゃん。何でしゃべらないの?」と首を傾げる。



「……」

「ねーえ」

「……だって、ひとと話すのは大変だろ」

「何で?」

「……言葉とか、選ばなきゃいけないし」

「何で?」

「……だって、その言葉で、その人の行動が変わっちゃうかもしれないし、」

「わかった、じゃあわたしはホヅミの言葉に影響されないようにする!」

「……お前さ、なんなの」



 ああもう、調子が狂う。いつもだったら静かに時が流れていくのをぼーっと見つめているだけの時間なのに。



「わたしはお前じゃない。セナ」

「……桜庭」

「セナ」

「…………セナ」



 しぶしぶ名前を呼んでやれば嬉しそうに笑う。本当に、こいつ、機械なのか? 信じられないくらい人間に近い——というか、もう人間そのものだ。そつなく会話もできるし、感情もある。

 これのどこが人間じゃないと言うのだろう。