喧騒。

 眩しい光に目をひらけば、穂積が泣いていた。

 目の前で、泣いていた。

 どうして泣いてるの。
 大丈夫だよ。

 身体を動かそうとした。

 ひどい痛みが走った。どうにか伸ばした指先は赤く染まっていた。

 そうして、わたしは今の状況を思い出す。



 わたしたちがずっといた病院よりもずっと大きな大学病院で、わたしは検査の結果待ちだった。

 近くに桜が咲いている公園があることは、何度か来ていたから知っていた。

 穂積との約束を思い出したわたしは、ひとりで桜を見に行こうと思って、菅田先生を残して病院から出た。

 通りを渡ったところに、穂積らしき人がいるのを見つけた。あまりにも穂積に会いたいせいで幻を見ているのかと思った。

 けれど、彼は——小さな子が道路に出ていきそうになっていることに気づき、自分を顧みることなく、トラックの前に飛び出して。



 それを目にした瞬間、わたしの身体も動いていた。




 そうしてわたしは、トラックに、突き飛ばされた。



 とても痛かった。

 赤い血が、わたしから流れ出ていく。



 それでも、不思議なんだ。
 その赤が、少しだけ、愛おしい。

 わたしもちゃんと人間だったってそう思えるから。



「セナ……」



 もう、目が霞んでほとんど見えない。

 でもね、穂積が触れていることだけはわかるよ。



“僕はセナのぬくもりを感じることができる。セナも僕のぬくもりを感じることができる”



 へへ。

 穂積の言う通りだね。



「だいじょうぶだよ、穂積」



 最期の力を振り絞って、穂積のお母さんがかけてくれた魔法を、穂積にかける。

 大丈夫。大丈夫。

 魔法使いが死んじゃったら、かかった魔法は、解けてしまうと思っていた。

 でもそれは違ったんだ。こうやって、誰かに引き継がれていく。



 穂積。

 わたしの魔法を、引き継いでね。

 誰かに、「大丈夫」って、そう伝えてあげてね。



 あのふたりの血を引くあなたなら——絶対に、素敵な魔法使いになれるから。



 ねぇ、神様。わたしは、穂積を愛することができたでしょうか。

 穂積のことを、愛していたとそう言ってもいいでしょうか。