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 わたしの人生は散々だった。

 小さな頃、家族で出かけた時に交通事故に遭った。

 両親は即死。唯一、一命を取り留めたわたしも手足や内臓がめちゃくちゃになってしまっていた。

 運び込まれたのは、穂積のお父さんがいる、この病院だった。当時小児科の長だった穂積のお父さんと、その助手だったお母さんが命を救うためにたくさんの技術を使ってわたしをこの世に繋ぎ止めてくれた。



「セナちゃん、起きれる?」

「っ、う」



 目を覚ました時、身体が鉄のように重かった。思ったように動かなかった。



「お父さんと、お母さんは……?」

「……」



 そう尋ねたわたしに、穂積のお母さんは、泣き出しそうな顔をして——わたしを抱きしめた。



「大丈夫、大丈夫。もう、大丈夫。私がいるからね」



 不思議と痛みが引いていった。まるで魔法使いみたいだなと思った。





 わたしの手足や内臓の一部、骨の一部は人工になった。それを目ざとく見つけた国は、最新の技術をわたしで試すように、穂積のお父さんとお母さんに申しつけた。

 一度法律違反スレスレのことをしてわたしを救ったふたりは、その命令を断ることなんてできなかった。ただでさえ、お金がかかる身体なのだ。本体の成長に合わせて調整していかなくてはならない。国からの援助がなければ、わたしは途中で息絶える。



「……ごめんな、セナちゃん」

「痛い! やだっ、もう痛いのは嫌だ……っ!」



 成長したパーツは慣れるまでひどい痛みを伴っていた。どうして自分がこんなに苦しい思いをしなくちゃならないのか、わからなかった。



「大丈夫、大丈夫」



 苦痛にうめくわたしを、穂積のお母さんはいつだって魔法の言葉とともに抱きしめてくれた。

 だからこそ、わたしは生きていた。穂積のお母さんの魔法の言葉があったから、それだけを糧に、生きていた。

 そんな時、一度穂積を見たことがある。



「これができるようになったんだ!」



 目をキラキラさせて、お父さんとお母さんに何かを報告していた。穂積のお母さんは穂積のことを抱きしめて、「大好きよ」と笑っていた。

 あの魔法は、わたしのものだけだと思っていた。

 だけど、違った。

 それがわたしをどん底に突き落とした。なんのために生きているのかわからなくなった。ふたりに喚き散らしたこともあった。



 なんで助けたの。
 なんで放っておいてくれなかったの。

 ふたりは悲しそうな顔をして、それでも「大丈夫」と効かなくなった魔法の言葉を繰り返した。



 死んでしまえたら楽だなと何度も思った。

 何も楽しくなかった。
 生きる意味はなかった。

 そんな罰当たりなことを思ったからだろうか。

 穂積のお父さんとお母さんが、海外で、死んでしまった。

 わたしの魔法は、完全に——切れてしまった。

 泣いた。身体中の水分が全部なくなってしまうんじゃないかというくらい、泣いた。機械の部分が錆びて固まって、そのまま死んでしまえたらいいと思った。

 泣いて、泣いて、泣いて、——そうして、ある時、泣き止んだ。

 死のう。
 そう思った。

 今まではあのふたりの魔法があったから生きられた。でも、今は、もう何もない。だったら生きている意味なんてない。

 ふと。

 本当にふと、彼のことが頭に浮かんだ。

 キラキラした瞳で生きていた、わたしとは全く違う彼。

 死ぬ前に、一度くらい、会いに行ってもいいかなと思った。

 春の夜だった。
 春風に連れられるように、彼の元を訪れた。

 そこにいたのは、がらんどうの人間だった。

 彼は、全てを——失っていた。



「……こんにちは」



 彼のその、全てを諦めた声に、皮肉にもわたしは——生きる意味を、見つけたのだ。