人工知能。その言葉は僕でも知っている。Artificial Intelligence——俗に言う、AIだ。




「この子が、AI……」



 小さくそう呟いた僕に、菅田先生はにこっと笑って大きくうなづいた。



「そう。人工知能——AIだ。この病院で発足したプロジェクト、通称“アイ・ターミナルケア”が今の君の症状に最善だと思って、被験者に推薦したんだ」



 被験者……ってことは、まだ治療法としては確立してないということだ。

 僕の考えていることを読み取ったのかどうか、菅田先生は「その通り、まだ世に出せる形にはなっていない。うちにいるAIもこのセナだけだ」と説明してくれた。



「それでも、僕は穂積くんの治療にとって一番効果的だと、そう思っているんだよ」



 唯一のAI、桜庭セナ。そしてそれを使用したプロジェクト、“アイ・ターミナルケア”。ターミナルケアという言葉は、確か症状緩和ケアに使用されるものだったと、



 ずきん。



「ッ……」



 今まで父さんに教わった医療の知識を脳裏に浮かべた途端、何かに刺されたような頭痛がした。くらくらとめまいが襲ってくる。



「無理しないで。詳しい話は体調が良くなってからにしよう」

「っ、すみません、」

「なんで君が謝るんだい。君は何も悪くないよ」



 違う。違うんだよ菅田先生。

 僕が、僕のせいで、——ふたりは、



 眩暈がする。吐き気がする。
 きもち、わるい。



「今はゆっくりおやすみ」



 その言葉を最後に、僕の意識は闇に飲まれた。