「痛って……」



 背負っていたリュックサックが緩衝材になって、地面との直接激突は避けられたけれど、案の定、リュックと左半身の服には摩擦で大きな穴が空いていた。



「っ」



 無意識のうちに、飛び出した子どもを抱きしめていた。彼は顔面蒼白になりながら、ぶるぶると震えていた。その姿に無意識のうちに「大丈夫、だよ」と言葉が飛び出した。一緒にいた友達が駆け寄ってきたから、その子に任せる。

 ゆるゆると脳裏に状況が降りてくる。僕はこの子を救おうとして、それで。

 ……でも何で、こんなところで怪我もしていないんだ?



 何が起きたのかよくわからず、痛みに顔をしかめながら状態を起こした、刹那のこと。




「……あ?」



 左斜め前、歩道に乗り上げる直前で止まったトラック。横断歩道の真ん中、倒れている人影。



「……?」



 血に染まっているけれど、あれは、白いワンピース。
 僕は知っている、あのワンピースは僕が買ったものだ。



 投げ出された白くて、細い手足。
 僕は知っている、あの手足は、すぐに折れてしまいそうなほど脆い。



 血溜まりに沈む小さな頭。
 僕は知っている、彼女の頬は、まろやかにあたたかいんだ。









「……セナ?」








 嘘だ。嘘だ。嘘だ。そんなの、嘘だ——————。








「誰か、救急車!」

「ひどい血が」

「なんてこと!」






 誰かが何かを言っている。

 聞こえない。いや、聞こえている。

 だけれども、何もわからない。

 だって、なんで?








 どうして————機械のはずのセナが、血を流して倒れているんだ?