楸の送ってきてくれた住所をマップのアプリに入れて、最寄駅から早足で向かう。

 電車に乗っている間に少しだけ落ち着いた。歩いて15分。時間はお昼過ぎ、一番暖かな時間帯だった。

 ボールを持って駆けていく子どもたち。マップを見れば近くに大きめの公園があるようで、きっとその子たちはそこで遊ぶんだろう。

 ふと、その公園の口コミが目に入った。桜が綺麗な公園らしい。

 桜か。セナと一緒に観に行こうと約束していたのを思い出して、少しだけ遠回りしてそこを覗いてから行くことにした。はしゃぐ少年たちの後ろをついていく。少しだけ歩いたら、突然景色が開けた。



「……わ」



 思ったよりも綺麗な景色が広がっていて、思わず気持ちが溢れる。



 まだ、何もわからない。セナが何で死んでしまうのか。彼女が何を考えているのか。

 それでも、僕は思うんだ。



“お花見しようよ”



 セナに会えたら、ちゃんと話せたら、帰りに一緒に桜を見よう。

 どくん、どくん、と鼓動が鳴っている。心の位置をはっきりと理解する。

 ぎゅっと奥歯を噛み締めて、もう一度桜の木を見上げる。さわさわと春風が花びらを連れていく。その風花のような欠片を目で追った。

 その先に。



「……あ?」



 ピンク色の、ゴムボール。

 あれは、さっき、どこかで。



「あー! 届かない!」



 ボールをキャッチしようと公園から飛び出していく、少年。








 その時、僕は、何も考えていなかった。

 ただ、勝手に、身体が動いていた。









「——危ない!!」




















 誰かの叫び声がした。ブレーキの甲高い音がした。

 何か柔らかいものがぶつかった感覚、僕と少年が地面に吹き飛ばされて、直後、重たい音が鳴った。