朝方には病院に着いた。車で7時間。僕らの旅は、たったそれだけの距離だった。車を降りたセナは、泣き腫らした目をしていた。きっとずっと、助手席で泣いていたのかもしれない。



「……穂積。ごめんね」

「……謝るなよ」

「あのさ……ワンピース、ありがとう」

「……さっさと行けよ」

「ちゃんと……幸せになってね」

「……」



 セナが去っていく。後ろ姿はどんどん小さくなっていく。



「……」



 くそ。

 お前が切り離したんだろ。

 お前が勝手に、途中でやめるって決めたんだろ。

 なのに、何で、



「……セナが、泣くんだよ……っ」



 セナ。セナ。セナ。

 好きだよ、セナ。

 たとえ騙されていたんだとしても、それでも——好きだよ。



 僕は知らない。この病院でセナがどこにいるのかなんて。いつだって彼女が、僕の部屋に来てくれていたから。

 だからきっと、もしかしたら、もう二度と彼女に会うことはないのかもしれない。



 ふらふらになりながら、たどり着いた自室。見慣れた病院のベッド。



「——っ」



 そこに突っ伏した僕は、セナの残香を抱きしめるように、ただ、ひたすらに、泣いた。