「ねぇ、穂積」



 タイミングよく、セナが僕の名前を呼んだ。



「なに」

「わたしと、ずっと一緒にいてくれる?」

「いるよ」



 間髪入れずにそう答えれば、セナは月明かりの下で「ふふっ」と嬉しそうに微笑んだ。



「セナは?」

「え?」

「セナは、僕とずっと一緒にいたいって、そう思う?」



 僕の質問に無言で2回うなづいたセナの髪をさらって、春風が吹く。セナは風が流れて行くほうに目線をやる。長いまつ毛に月明かりが灯る。

 早くに咲きすぎた桜の花びらが彼女の周りを舞って、まるで彼女を連れ去ってしまうみたいに見えて、僕はあわててセナに手を伸ばす。



「穂積? どうしたの」

「……なんでもないよ」



 夜のセナは、美しくて、儚い。まるでこれが、春の夜の夢だと、そう僕に思わせるほどに。

 セナの指に自分の指を絡める。瑞々しくて、やわらかいぬくもり。

 引き寄せる。抱きしめる。唇をふさぐ。

 吐息の隙間で、ささやく。



「セナ、好きだよ」

「……うん」





 僕はこの夜を、一生、忘れない。
















 僕は知っていたはずだ。

 永遠など、ない。

 手に入れたいと思ったしあわせは、手に入れた瞬間から、失うまでのカウントダウンが始まるということを。