7年前。両親を亡くしたばかりでがらんどうだった僕の目の前に、セナは現れた。
「穂積くん、調子はどうだい?」
担当医の菅田先生が僕に尋ねる。彼は父さんの部下で、よく僕とも一緒に遊んでくれていた人だ。父さんは若くしてこの病院の医院長になり、懸命に勤めていた。先代が母さんの親だったから、そこから引き継いだ形だ。
だからこの病院はいわば僕の家みたいなもので、この病院の人のうち、特に父さんの担当だった小児科に勤めている人は僕の家族のようなものだった。
「……」
挨拶くらいしなきゃ。そう思うのに、声が出なかった。この時の僕は、精神的ショックの影響で頭と身体がチグハグで、うまく神経伝達すらできていないような状況だった。
それでも菅田先生は「うん、顔色は悪くないね」と言いながらニコニコ笑いかけてくれる。
「今日は君にある子を紹介したくてね」
そう言った彼の背中からひょいと顔を出したのはどこかで見たことのある小学生みたいな女の子。
「あ」
そうだ。彼女はこの間、夜に僕の病室に来て『こんにちは』と意味不明な挨拶をしていった子だ。
「お? 穂積くんが反応したってことは、もうすでに知り合いなのかい?」
菅田先生は驚いたように目をぱちぱちさせながら、僕とその子を交互に見た。
「……わたし、この間この子に会いに行ったから」
「こらこら、セナ、勝手に出歩いたら駄目だって言っただろう?」
「ごめんなさい」
僕は何を見せられているんだろう。そう思ったのが顔に出たのかもしれない、セナ、と呼ばれた彼女はくるりと僕の方を振り向いてこう言った。
「わたしの名前は、桜庭セナ。人工知能組み込み型のロボットです」
桜庭セナ。
人工知能組み込み型のロボット。