そうして、次の日の朝。
僕らは病院から逃げ出した。
学校に行くふりをして、たくさんの電車を乗り継いで、行ったことのない土地に進んで行った。新幹線はお金がかかるから、鈍行列車を乗り継いだ。時間だけは、たくさんあった。僕らにあるのは、時間だけだった。
すれ違う人たちは誰も僕らのことなんて見ていなかった。僕らはふたりぼっちだった。それが僕らが望む世界の全てだった。
1日経って、2日経って、3日、4日、……1日をただ、繰り返した。
その頃に、セナが思いついたように言った。
「穂積、制服、着替えない?」
「確かに。目立っちゃうし、学校特定されても困るしね。でもどこで買おうか……」
駅近くの案内図をみていたら、「ショッピングモールあるよ」とセナが近くの商業施設を指差した。
僕らはバスに乗り換えて、その商業施設を目指した。
ふたりで買い物をするのも、初めてだった。
ショッピングモールで洋服を見繕った。それを持ち運ぶ大きなカバンと、旅をするのに必要な消耗品などを買っているとき、セナがあるショーウインドウの前で立ち止まった。
「可愛い……」
「これ?」
「うん、このワンピース」
セナの指差すワンピースは、白いブラウス生地でできたロングワンピースだった。セナによく似合いそうだと思った。
「一旦見てみよっか」
そう言って僕らはその店の中に入った。目当てのワンピースはすぐに見つかった。
「あった」
嬉しそうに駆け寄っていくセナ。可愛い。
「んー、Sかな」
ラックから持ち上げて、自分に当ててこっちを振り向く。
「可愛い?」
可愛いに決まってんだろ、僕のこと馬鹿にしてる?
ごほん。
「似合うよ」
「ほんと?」
「……買う?」
「んーでも、高いしな……」
迷うように触れていたワンピースを戻す。
「お金なくなっちゃったらダメだから、やーめた!」
そう言ってセナは、店から出ていく。
「ほんとにいいの? 買わなくて」
「うん、穂積と一緒にいれるならなんでもいい」
「……あんま可愛いこと言ってると……襲うよ?」
「!」
「冗談だよ」
まだそういうことになったことはない。
でも、一度、出発して1日目の夜にそんな話になった。ホテルは安いビジネスホテルを選んで、その中でも一番安い部屋にした。2泊分の料金を支払って、僕らはその部屋に移動した。
「穂積、あのさ」
「ん?」
シャワーを浴びてバスローブに着替え、ベッドにゴロンと横になった僕に、セナはおずおずと切り出した。
「その……夜の、ことなんだけど」
「? 何、かしこまって」
「……わたし、機械だけど、そういうの……できなくはない」
「……そういうの?」
「…………」
「……はっ」
唐突に理解した。
「……あ、うん、はい」
「……する?」
「……ちょ、ちょっとあの、覚悟が」
そりゃしたい。健全かはわからないけれど一応僕も年頃の男だ。そういう欲求がないわけではない。困ったように固まっている僕を見て、セナは吹き出した。
「あはははは!」
「笑うなよ……」
「だっ、だって穂積、すっごい照れてるんだもん」
「笑うなってば」
あまりにも大笑いするもんだから、セナをベッドに引き摺り込んで「いつか、そういうふうになったら、覚悟しとけ」とキスしてやった。
形勢逆転だ。真っ赤になって黙り込むセナ。ちなみに、言い忘れていたが、多分、僕の顔も真っ赤だと思う。