言うやいなや、セナは来ていたブラウスのボタンに手をかけた。止める間もなく一つ外れて、ちらりと小さな鎖骨が覗く。

 一瞬その白さに見惚れる。小さくて、すべすべしていて、触ったら壊れそうな窪み。指を伸ばしたい衝動が走った刹那、すぐにハッと我に返る。



「何してんだよセナやめろ今すぐそのボタンを留めろ」

「ホヅミの早口言葉」

「ドリフの早口言葉みたいな言い方すんな……じゃなくて、ああもう!」



 どこで覚えて来んのかね、とぼやきながらセナの襟を合わせてボタンを留めてやる。もちろん、素肌に触れてしまわないように細心の注意を払って。



「検索したらたくさん出てきたんだもん。高校生はこういうのが好きなんじゃないの?」

「バッカじゃねーの!?」



 お前の検索能力をそんなバカみたいなことに使うんじゃない!



「てかセナお前、ここ来るとき廊下走らなかっただろうな」

「え? あ、ははは」

「笑って誤魔化すな」

「……ホヅミの小姑」

「それっぽいこと言って逃げんな。病院は走ったらダメだって何回言ったらわかるんだよ。僕が怒られんだよ」

「だってわたしはホヅミのところに早くいかなきゃって思ったんだもん」

「そんな簡単に人のせいにすんな」

「ホヅミの意地悪」



 ぷんっと僕の上でむくれるセナ。

 僕の体調を心配できる。
 妙に変な知識を仕入れることができる。
 笑って誤魔化すなんて高等テクニックも最近身につけた。

 もちろん、注意されてむくれることだって、できる。

 喜怒哀楽は豊かな方だ。すぐにすねるし——すぐに笑う。

 だけど、彼女は。

 桜庭セナは——、