「痛った」

「気にしすぎ! 別にお前がギターやらなかったからって死ぬわけじゃねっつの!」

「てか、後で早瀬に謝れよお前。めっちゃキレてたぞ」

「……はい……」

「穂積」



 古谷くんが、僕の名前を呼んだ。苗字じゃなくて、名前を。



「お前は、優しすぎなだけだ。もちろん俺たちはみんな、その優しさに救われた。でもよ、別に人の人生までは変えられない。早瀬は、穂積の言葉を聞いて、穂積の音を聞いて、——早瀬が自分で選んだ道だ。だから、お前のせいなことなんて、ひとつもないんだよ」



 僕の、せいじゃない。



『……だってよ』

 僕の、せいじゃない?



 じわ、と世界が歪む。あ、泣く。そう思った。

 ぎゅっと奥歯を噛み締めて必死で耐える。泣くのは今じゃない。ちゃんと、全部片付いてからだ。早瀬にも謝って、セナにも謝って、そして、全部を打ち明けてからだ——。



「……ありがと」

「おうよ。困った時はお互い様だろ。な、香山、松村」

「うん、穂積くん。なんかあったら相談してよね」

「俺も、恋愛相談ならどんとこいだ。セナちゃんが目ぇ覚したら、ちゃんと仲直りしろよ?」

「……うん」



 3人はそれぞれ手を振って早瀬の病室に戻っていく。

 きゅっと廊下を靴が滑って音を立てる。雨音に混じって消えていく。僕は反対方向、セナの元へ向かう。

 ああ、後でちゃんと早瀬にも謝らなきゃ。彼女は許してくれるだろうか。ギターを、弾いてもいいと、そう言ってくれるだろうか。

 いいや、違う。

 許してくれるだろうか、じゃない。
 許してもらうんだ、絶対に。

 それで、その後、みんなに言おう。

 僕がギターをやるよって。

 だって、だってさ。
 友達が困ってるんだ。

 僕を助けてくれた友達がさ。



 だから、今度は——どうなったとしても、僕が、助ける番だろう?