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「ホヅミ」
「ん?」
「……」
わたしは、そっと腕を伸ばした。久しぶりに触れる穂積の腕。
「どうしたの、珍しいじゃんか」
「……ちょっと寒いから」
「そう」
穂積はそのままわたしの手のひらを自分の手のひらの中に収めてくれた。
わたしの手のひらでは、熱量を感じることができない。神経なんて通っていないから。それでもわたしは、たとえ彼が腕だけになったとしても、きっと穂積だってわかるんだろう。
「ちょっとはあったかい?」
「……うん」
嘘。ただ、穂積と手を繋ぎたいだけ。今、わたしが穂積の傍にいることを、ちゃんと確かめたいだけ。
「ねぇ、ホヅミ」
「ん?」
「好きな人、できた?」
「何、急に」
「……前ホヅミに言ったじゃんわたし、青春したほうがいいよって」
普通に。ありきたりに。いつも通りに。
ばれない、ように。
「それの確認だよ」
「ふうん」
穂積はきゅっとわたしの指に自分の指を絡ませる。そんなわけはないのに、まるで瑞々しい感覚が伝わってくるみたいで、少しだけ心臓がうるさくなる。
穂積は照れたように顔を背けて、
「……うん、たぶん」
とそう言った。
「そっか」
相手はきっと、早瀬ちゃんだろう。
早瀬ちゃん以外に、穂積が女の子と一緒にいるのを見たことがない。
「……ホヅミは、告白しないの?」
「……できないでしょ」
「できないってことはないでしょ」
「そんな簡単じゃないっての」
そうだね。
告白するっていうのは、そんなに、簡単なことじゃないね。
現に私も、言えてない。
たった四文字なのに。
穂積。好きだよ。
そう言うだけなのに。
いろんなしがらみが邪魔をして、その4文字をわたしの唇から遠ざける。
代わりに、名前を呼ぶ。
カタカナみたいな音で、彼の名前を呼ぶ。
「ホヅミ」
「なに、セナ」
「……できるといいね」
「……いつか、ね」
繋がれた右手だけが、ただ、所在なくぶら下がっていた。
***