僕——狗楽穂積には、親がいない。7年前、ふたりは、僕を置いて手の届かない場所へ行ってしまった。
何があったか——あの日のことは思い出したくもない。両親のことは、もう、記憶から消してしまいたいくらいだ。
「……っう」
ずきんとこめかみが痛む。意識してしまうと、頭痛のタネがまだ頭の中に残っているのを感じる。
7年前、両親を失ったことが原因で精神を病んだ僕は、頭痛という爆弾を抱えてしまった。当時に比べたらだいぶ回数は減ってきてはいるものの、少し無理をするだけで月に数回、狂ったように痛くなる。そうなってしまうともう抑えが効かなくなる。
そんな変な病魔に好かれた僕は、おかげさまでずっと入院生活をしている。ありがたいことに、僕の両親が病院の医院長と大親友だったおかげで、今ではこの病院が僕の家代わりだ。
発作のせいで学校を休みがちな僕だけれども、主治医の先生やいつも良くしてくれる看護師さんたちのおかげで、出席日数ぎりぎりの留年スレスレでどうにか進級して、高校2年生になることができた。
「ここまでで何日休んだかな……」
留年するわけにはいかない。両親が残してくれたお金も十分あるとは言え、無駄遣いはできない。なんてったって僕は身体に時限爆弾を抱えている。ちゃんとした職場で働けるかもわからない。
ずっと僕を担当してくれている看護師のはるみさんは「医療関係者になってこの病院で働けばいいのよー! 穂積くんだったらみんなの家族みたいなもんだから、大歓迎!」だなんて簡単に言う。
医療関係者なんて、僕が一番なりたくない職業だ。だったら山奥にこもって自給自足生活を送る方が500倍ましだ。
ずきん、とまた少しこめかみが痛む。また発作になるのは絶対に避けたい。
あと何回休める? 確か授業日数の3分の1休んだら単位取れなくなる制度だったから……。記憶を辿って回数を暗算していたら、突然、のしっと重さがかかる。
「……セナ?」
セナが僕の上に乗っかってきたのだ。一応名前を呼んでみたけれど、セナは何も言わない。まぁ、別にいつものことだ。たまにこうしてセナは僕にくっついてくる。同世代の女がのしかかってきたら重くて跳ね除けてしまうかもしれないけれど、セナ程度だったら重さも感じないので特に何も言わず、そのまま放置する。
「ホヅミ、留年しそう?」
「……あー……今のままだとね……」
もちろん僕と同じ回数しか学校に行っていない(行く気もない)セナもだけどね……。
「お金、わたしが代わりに稼ごっか?」
「どうやってだよ」
「こうやってだよ」