病院に帰って自室に戻ってもセナの姿は見えなかった。ほんとうにどこかで倒れていたらどうしようと思って、はるみさんを捕まえたら、1時間前には帰ってきたと言っていた。



「……はるみさん、あの」

「どうしたの?」

「……セナ、どんな感じでしたか」

「? 別に普通だったと思うけど」

「そうですか」



 やっぱり、セナ本人に聞かないとわからなそうだ。そう思ってセナの居場所を探る方向に質問を変える。



「セナどこにいますか?」

「ごめんね、私はわからないのよ。戻ってきてたから、出ていってないとは思うけど」

「そうですか……ありがとうございます」



 はるみさんはセナの居場所を知らなかった。あとセナのことを知っているのは菅田先生だ。

 夕飯と風呂を済ませてから菅田先生に連絡を取った。でも、菅田先生に聞いても居場所は教えてもらえなかった。「体調でも悪いんですか」と尋ねても、「大丈夫、体調は悪くないから」の一点張りだった。



「はぁ」



 今日は、疲れた。初めてのことが多過ぎたからかもしれない。

 キーボードの前に立ったときの高揚感。演奏中の興奮。古谷くんとの話。早瀬の涙。

 そして、セナのいない、帰り道。

 スタジオから出ていったときのセナの顔が脳裏に浮かぶ。



「……なんなんだ」



 考える。セナは早瀬が泣いているのを見てすぐに出ていった。僕と早瀬をふたりきりにするのがいいと思った、という感じではなかった。

 それよりももっと。焦るような。慌てたような。

 でもそれは、彼女には持ち得ない感情だ。

 なのに、どうして。
 僕には、わからない。

 わからないけれど。



「……」



 もう二度と、セナのあんな表情は見たくないなと——そう思っている自分がいることだけは、わかっていた。